広いんだね〜…本宮の敷地って」





熊野にて






「まあ一応熊野三山のトップの寺だ。でかくて当たり前だろ」

ハハハ!と大きな笑い声がして将臣君に笑われた。

「とっぷ…?と言うのは神子の世界の言葉なのか…?」

「あ、はい!一番上って意味なんですよ」

小首を傾げながら問う敦盛に答えを返す。

一人で境内を散歩していたら意外なことにこの二人が一緒にいたのだ。

気が合わないだろうと感じていただけに、少なからずは戸惑った。

しかし、慣れると別におかしく見えない辺り、人は不思議だ。

「…ん?どうした、じっと見て」

無意識のうちに将臣と敦盛とを見比べていたらしく、そう問われてハッとする。

「ううん、何でもないの」

首を振って否定すれば将臣は「変なヤツだな」と言って笑い、敦盛は首を傾げていた。

二人ともそれ以上追求してこないのが嬉しかった。

これがきっとヒノエ辺りだったら「オレにみとれてたのかい?姫君」と軽口を叩くことだろう。

そうして、またヒノエの事を考えている自分に気付いた。

最近、気付けばヒノエと誰かを比べている。

ダメだ、と頭から消そうと首を振った。

戦乱の最中、恋にうつつを抜かしていられない。

隙を見せたら命を失いかねないのに。

そう思っても惹かれ続けている自分にも気付いていた。

「どうしたらいいんだろう…」

考えに没頭しすぎて、は気付いていなかった。

目の前でオロオロしている敦盛や、面白そうに笑っている将臣。

そして、後ろから近付いている人影に。

「姫君?」

突如、うつ向いて考え込んでいた顔をぐいっと上げられる。

見上げた先にいたのは。

「可愛い顔に皺を寄せて何を考えてたのかな?」

「…っ!ヒノエ、くん」

今まで考え込んでいたその人。

「オレの事でも考えていてくれたなら、嬉しいね」

「なっ…!」

何言ってるの、と言いたいのに上手く口が動かなかった。

かぁっと顔が紅潮するのを感じた。

「へぇ…もしかして図星、なのかな?」

「ま、まさか!」

ぱっと手を振り払って言うと、「ふふ…じゃあそう言う事にしとこうかな」と笑った。

何もかもわかったようなその調子を少し恨めしく思うと同時に好きだ、と思う。

そんな自分を押さえ付けるのは大分困難な事は十分承知していた。

「姫君?」とうつ向いていた顔を除きこんだ。

その行動に慌てて会話を探した。

「ヒノエくんはどうしたの?こんなところまできて」

突然話を振られた事に驚いたのか一瞬不思議な顔をした。

と思ったらフッと笑んで肩に手を置き耳元で囁いた。

「そんなの決まってるだろう?…姫君に会うためだよ」

「っ!?」

耳元で囁かれたせいもあり、激しく動揺した。

赤い顔を隠そうと思わず下を向くと「ふふっ、可愛いね姫君は」と言って肩に乗せていた手をどかした。

「姫君こそどうしたんだい?こんな何もない所で」

「散歩をしてたの」

顔を上げて答えるとわかってるよ、と言う感じの顔をしていた。

「散歩をしてたのは知ってるよ。何でここに長時間いるのかを聞いたのさ」

「広いのに遊具もないんだな、と思って…」

そう言うとヒノエは何?と言うような顔をした。

「遊具?でもここは神社だぜ?」

「でも、私達の時代にはあるんだよ、遊ぶ場所。ブランコとかあって、小さい時よく遊んだりしたもの」

「ぶらんこ?」

不思議そうに首を傾げながら問うヒノエ。

そう言えばこの時代にはブランコもなかったんだ、と言うことを忘れていた。

「ブランコって言うのは木の板と紐で出来てて、振り子みたいに揺れるんだ」

思わずしゃがんで木の枝で絵を描く。

ヒノエはへぇ、と言って納得したようだった。

「楽しいのかい?ブランコは」

「?うん、楽しいよ」

突然そんなことを聞くヒノエに驚きながら答える。

するとヒノエは突然立ち上がった。

「ヒノエくん?」

何処かに行こうとしたヒノエの背に向かって呼び掛ける。

するとヒノエは首だけ振り返って企みのありそうな笑顔で言った。

「待ってな、姫君が喜ぶもの持ってきてやるよ」

何を、と問う間もなくヒノエは木の上へと跳んでしまった。




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