!こっち」

おしゃれなカフェの窓際の席で手を挙げている紅緋の髪の彼が見えた。










ららら歌ってららら笑って三歩進んで付ける









「ごめんね、待った?ヒノエくん!」

「いいや、平気だよ」

目の前の席に上着を脱ぎながら座る。水を持ってきたお姉さんに会釈して鞄から大切な包みを取り出した。

「はい、これ。バレンタインデーのチョコレートです」

「ありがとう、嬉しいよ。開けていいかい?」

「勿論」

ヒノエくんが目の前でピンクの包装紙を開く。
中には小さな宝石箱風のおしゃれな箱。
雑貨やさんで見付けてひとめぼれしたそれの中にピンクのトリュフがはいっている。
トリュフの中にはシャンパン入り。
料理があまり得意ではない私は市販のチョコレートを詰め替えるという荒業をしたのだった。

「へぇ…ピンクのトリュフなんて洒落てるね」

「でしょ?それ名前も凄く可愛いんだよ」

「へぇ、何て言うんだい?」

「小悪魔のトリュフって言うの。可愛いよね」

「そうだな。食べていいかい?」

「うん、どーぞ」

「いただきます」

「…どう?」

「ん、これ、シャンパン入ってる?」

「あ、うんそうだよ。もしかして苦手だった?」

「いや、美味いよ」

「ほんと?よかった」

にこりと笑うヒノエくんに私は安心する。
残りは後で食べる、と蓋をするヒノエくんを見て私は上着を着た。

「じゃあ行こうか」

「うん」

今日の目的は遊園地。カップル限定無料らしいのだ。
自分のコーヒー代を精算しにレジに向かったヒノエくんを見て私は先にカフェを出た。
見る限り幸せそうなカップルばかりで自然と笑顔になる。
私達もそんな風に見えてるのかな?
ふと向かいの歩道に中学生くらいのカップルが見えた。
寒そうに手を擦り合わせてる女の子の手を男の子がぎこちなく握っていてあげていた。
二人とも真っ赤になっていて、とても可愛いなあ。

「お待たせ、

「あ、ううん」

「じゃあ、行こう」

そう言ってたヒノエくんは慣れたように手を取り指を絡めようとする。
それをパッと振り払うとヒノエくんが驚いた顔でこっちを向いた。

…?」

「ね、あっち見て」

「何だい?中学生くらいのカップル?」

「そう。あんな風に手を繋ぎたいの。ういういしくていいじゃない?」

「全く…姫には参るね」

少し困ったような声色で、でも楽しそうに笑いながらヒノエくんは私の手に触れる。
軽く握っただけのお互いの手に、指を絡めた時以上の繋がりを感じたのは何でだろう?

「満足かい?お姫様」

「うん」

からかうようにヒノエくんが言って私は笑顔で応えて歩き出す。
向かいの歩道にいた二人の姿は既に見えなかった。
駅中にある小さなケーキショップから流れるバレンタイン独特のあの歌が不意に聞こえて私は手を離して三歩先に行った。

「シャラララ素敵にキーッス、シャラララ素顔にキーッス」

浮かれてそんな風に歌いながら振り返るとヒノエくんが楽しそうに笑いながら歩いてきた。

「ん…」

突然腰を引き寄せられて触れた唇に私は動揺を隠せない。
唇の形をなぞるように何度も触れるだけのキスを繰り返して、離れた。
目を開いた時こちらを見ている沢山の人を見てここが駅だと言うことに気付いた。

「ヒノエくん!ここ、駅だよ!」

があんな歌歌って誘うからさ、つい…ね」

「さそっ…!?誘ってなんかないよ!」

「あんな歌歌いながらあんな笑顔で振り返られたら男としては手を出さずにはいられない…ってね」

「もう!ヒノエくん!」

「ははっ悪い悪い!そろそろ行こうか。時間がなくなっちまう」

「…もう」

嬉しそうに笑うヒノエくんに結局私は負けてしまう。
差し出された手を取ると先ほどとは違ってゆっくりと、でもしっかりと指を絡められた。

「やっぱりオレはこっちの方が好きだね。を片時も離したくないし。…は?」

「…私、も、こっちの方が好きだよ」

ヒノエくんのいちばん近くにいれるから、と小さく呟くとヒノエくんは酷く嬉しそうに笑って見えないように頬にキスをした。
私が真っ赤になるのを見て、何かをいう前に手を引いて歩き出した。
向かうは遊園地。君とふたり。

















結局ただのばかっぷる(笑)