「明けましておめでとう、お姫様方。艶やかでよく似合ってる」
b
「ヒノエくん…?」









よ、やかに








昨夜譲くんから着物を借りて、朔と一緒に着替えて出てくるとヒノエくんが有川家の前で待っていた。

「どうしたの?もしかしてずっと待ってた?」

「いいや、ついさっきだよ。白龍がそろそろ来るって言ったからね」

「ごめんね、待たせちゃって」

「気にすることないさ。その格好だと色々と不便だろ?さ、どうぞ」

ヒノエくんは慣れたように有川家の引き戸を引く。
慣れない下駄でつまづく私の手を取ってまるで紳士の様にエスコートしてくれた。



「お邪魔します…」

「わっ!ちゃん、朔も綺麗だね〜。うんうんよく似合うよ!」

「孫にも衣装だな」

「兄さん」

「神子!ホントに綺麗だ!」

「ふふ、ありがとう皆」

先輩、そんな所で立っているのも何ですから座って下さい。ほら朔も」

「あ、うん。ありがとう譲くん」





「あ〜あ…皆寝ちゃった…」

「昨夜は遅くまで起きてましたからね」

「譲くんはちゃんと起きてるじゃない」

「俺は自分で調整しましたから。あ、じゃあ俺ちょっと買い物行ってきますね」

「え?何で?」

「この人数ですから食材が足りなくて。すぐ帰ってきます」

「うん、わかった。行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

譲くんは足早に家を出ていってしまった。
周りは熟睡しきってるし正月番組は退屈。
どうしようかな〜…

「よし、じゃあ汚れものでも片付けよっかな!」

「オレも手伝おうか?」

すっくと立ち上がった所で下から声がかかった。
ちゃっかり隣を陣取ってそのまま眠ってしまっていたはずのヒノエくんが横向きの状態で此方を見ていた。

「ヒノエくん!?起きてたの!?」

「ああ、ついさっきね。姫君が悩ましげな顔してたからこっそりとその動向を見守ってたんだけど」

ごそ、と寝そべっていた床から体を起こしてヒノエくんも立ち上がった。

「な、悩ましげ…?確かに悩んではいたけどそんな重要な事じゃ…」

「ふふっ顔が赤くなってる」

「も、もう!」

からかわれた事に気付きがちゃがちゃとお皿を重ねて片付け始める。ヒノエくんも真似て後ろからついてきた。

「姫君、あそこに残ってる皿全部持って来ちゃっていいのかい?」

「あ、うん。じゃあお願いします」

「了解」

ヒノエくんがお皿を持って来てくれると言うので私は洗い物をすることにした。

がちゃがちゃと皿を洗っていると

「はい、これで全部」

とヒノエくんがお皿を持って来た。

「ありがとうヒノエくん。助かったよ」

「姫君のお役に立てたなら何よりだね」

「じゃあ私は洗い物しちゃうからヒノエくんはもう座っててもいいよ?」

そう言いながら横を見るとヒノエくんがいない。あれ?と思っていると後ろから手が回ってきた。

「ヒノエくん?」

ぎゅっとちょっと苦しいくらいに抱き締められる。

「ヒノエくん、くるし…」

「さっきは言いそびれたけどさ」

「え?」

「本当に綺麗だよ、。よく似合ってる」

後ろから耳元で囁きながらヒノエくんがうなじに口付けた。
わざとちゅっと音を立てて私の聴覚を刺激する。

「ちょっ…やだ!ヒノエくん!」

するりとヒノエくんの手が上へ上ってきて着物の合わせに進入しようとする。
私は泡がついているのも構わずにヒノエくんの手を止めた。

「知らないのかい?姫君。着物の合わせはこうゆうことがしやすいようにこうなってるんだぜ?」

「そ、そんなの知らないっ…!」

「ふふっ顔真っ赤」

指摘されて更に顔を赤くするとヒノエくんが楽しそうにまたふふっと笑った。

「ね、いいだろ?…。」

耳を甘噛みしながらヒノエくんは小さく囁く。

「ゃっ…!だめっ…!」

「声に艶が出てきてるぜ?いいじゃん誰も見てないんだし」

「そっ…ゆー問題じゃ…」

「ただいま」

がちゃん、と鍵の開く音がしてとたとたと足音がした。ヒノエくんは不満げに私の着物を直してちょっと離れた。

「ただいま戻りました。ってヒノエ起きてたのか」

「ああ。机の上の皿はかたしておいたぜ?」

「今洗い物してるから」

「ああ先輩、気を使わせてすいません」

「いいのいいの。することなかったし」

「ありがとうございます。あれ、どうしたんですか先輩」

「え?な、何が?」

「顔、赤くありません?」

「そ、そんなことないよ!ね、ヒノエくん」

慌ててヒノエくんを振り返るとにやりと楽しそうに笑っていた。
その後はちゃんとフォローしてくれたけど、いつの間にかつけられていたうなじのキスマークに私が気付く事はなく、
それを見た譲くんが真っ赤になって眼鏡をあげていたなんてヒノエくんに抱き締められた私は全く知らなかった。










コレって微裏?じゃないよね!