お互いを強く強く抱き締めあったまま、木に背を持たれていた。
それは穏やかな時間。優しい時間。









とまらないのは想いの熱、ふえていくのは想いの質量










「ん…」

優しい風が吹く。
季節はもう夏に向かっていて、海の近くのこの場所は潮の香りがした。
とくん、とくんと脈打つ規則正しい鼓動に耳を傾ける。
私を抱き締めて木に背を預けたヒノエくんはすっかり眠りに落ちていた。

「…ヒノエくん」

…ああ、どうして。
どうしてこんなに愛しいんだろう。
顔を見るだけで、触れるだけで、名前を呼ぶだけで、
愛しさが、募っていく。

「…ヒノエくん」

「ヒノエくん」

「ヒノエ、くん」

「ヒノエ、」

。」

「っ!?え…!」



ふわりと花が綻ぶように笑って、途端に私の顔が赤く染まる。
髪に伸ばされた手がそっと頭を引いて胸に押し付けられる。

「ヒノエく…」

「ヒノエ。」

「え?」

「ヒノエって呼んでよ。さっきみたく」

「!!起きてたの!?」

「勿論」

にこっと笑ってヒノエくんは言う。
腰を引いて逃げようとする私の腰をがっちりと捕まえて耳元で話し出した。

「ね?、呼んで」

「〜〜〜っ」

、」

「〜〜っ、ヒ、ノ、」

「ヒノ?」

「…エ」

「まあ、合格点かな」

嬉しそうに笑って、ぎゅっと私の頭を抱き締めた。
凄く凄く凄く恥ずかしかったけど、こんなに喜んでくれるならたまには呼んでもいいかな、と思った。



「何?」

「もっと、呼んで」

「…ヒノエ」

「もっと、」

「ヒノエ」

「もっと、」

「ヒノエ」

「ありがとう、姫君」

ちゅ、と目元に口付けてヒノエくんは笑う。
私は照れ隠しにうつむいた。

「…たしも、」

「ん?」

「私も、名前がいい」

恥ずかしかったけど素直に言った。
そしたらヒノエくんは目を見開いて、優しく笑った。

「仰せのままに。…

眉間に口付けてそのまま抱き締められて。
数時間前のさよならなんて嘘みたいに。

離れないよ、離さないで。

私はそっと呟いて、ヒノエくんの腕の中で眠りに落ちた。
何事かヒノエくんが言った言葉を聞き取る前に。