なあ、神様とやら。

もし本当にいるのなら、たったひとつの願いを叶えてはくれまいか。

たったひとつ願うこと。それは、ー

オレの最初で最後の願いを、恋を、どうかー。















たったひとつ、最初で最後の我儘。最初で最後の終わりの恋














清盛を倒して、荒れていた海も元に戻った。
最後にやる事はひとつ。
の答えを聞く事。

…」

「これで、全部終わったんだね」

揺れる甲板の上、の方をくるりと向くと、はうつ向いていた。

「ありがとう、私ヒノエくんの幸せを願ってる」

!?」

「もう、ヒノエくん以外好きにならないから…」

焦った。
このままじゃの言葉は帰る、という方向に行く。
それは別れを意味する。駄目だ、それだけは。
冷静を装いながら、の腕を掴んだ。

「帰さねぇよ」

「…え?」

「バカだな…海賊が一度さらった姫君を返すわけないだろう?」

「神子の務めが終わってもお前はオレのお姫様だ」

「お前を熊野に連れて行く ずっと楽しく暮らそうぜ」

の腕を掴んでいる手と反対の手を、そっと差し出す。
はうつ向いたまま、答えない。
やがてゆっくりと顔をあげて、ぽつりと呟いた。

「…おとなしく、さらわれると思う?」

それは最後のの抵抗だった。
目尻には涙がうっすらと浮かんでいる。
拭いたい気持ちを抑えて笑った。

「いいや だけど、抵抗してもさらってくよ」

「オレは、こうと決めたら逃さない主義なんだ あきらめなよ」

「ねーオレのことが好きだろ」

これが最後の賭け。
そっと掴んでいたの腕を離し、そのまま腕を広げる。

「おいで。ー

その途端、関を切った様に真珠の涙を流しながら胸の中に飛込んできた。
その温もりをぎゅっと抱き締めて、もう離さないと決めた。

「ヒノエくんっヒノエくんっ…!」

…」

さらさらと指通りの良い髪を鋤く。
はもうわけがわからないほどに泣いていた。

「…お母さんっ、お父さんっ、ごめんなさいっ…!」

無意識だったのだろう。
きっとオレの腕の中で言っている事など、気付いていない。



「…お母さんっ、お父さんっ、ごめんなさいっ…!」



その言葉が心に鉛を落とした。






『本当にこれで、良かったのかい?











聞けないまま、船は熊野へ向かっていた。