早く、オレだけの姫君になって欲しいのに―…
焦燥
「」
「うん?」
柱にもたれかかるオレを振り返って見る。
洗濯物を畳むその笑顔は楽しそうで。
一瞬ほだされそうになるが今日はそんな花の笑顔にも騙されない。
「姫君、いつオレの花嫁になってくれるんだい?」
「えっ…」
余りに直球な問いには顔を赤らめた。
「ま、まだもう少し…」
そう言って顔を背けるに気付かれないように近付く。
「どうして?」
わざと耳元で囁けばは赤くなって避けようとした。
「逃がさねぇよ」
そこをすかさず抱き締める。
「ヒ、ヒノエくんっ…!」
急に避けようとしたのとオレが後ろから抱き締めたせいでは体勢を崩し、
オレに寄りかかる様な体勢になっていた。
足元で洗濯物をはくしゃくしゃとしていた。
「ねぇ姫君、どうしてまだ駄目なんだい?」
「だ、だって…」
体勢を直そうとしながらは口を開いた。
「まだ、譲くんが…」
「譲?譲の事、気付いてたのかい?は」
オレは心底驚いた。
は絶対譲の気持ちに気付いていないと思っていたからだ。
「え?気付くって…何が?」
しかしは不思議そうに聞いてきた。やっぱり気付いてなかったらしい。
「いや、何でもないよ。で、譲がどうしたんだい?」
「譲くん、まだ私たちの世界に帰ってないじゃない?
私が今ヒノエくんと結婚しちゃったら譲くんはこの世界で一人ぼっちだよ」
「ああ…そういうことか。つまり結婚は譲が帰ってからがいいって事だろう?」
「うん、そうなの。駄目かな?」
体勢を崩したままの格好ではオレを仰ぎ見た。
「いや、姫君がそう決めたならオレは構わないよ」
「本当?ありがとう!」
にっこりと笑うに不意打ちでキスをした。
「ヒノ…!」
「ただ、これだけは許してくれよ?」
「え?」
「早いとこ、譲が帰っちまえばいいのにって思う気持ち。
本当は早くを独占したいんだぜ?」
するとは少し笑って言った。
「ヒノエくんのやきもちやき」
「オレは元々独占欲強いからね。覚悟しておきなよ?姫君」
そうして笑いあった。
髪や額、頬に唇、至る所にキスをして。
戯れあった。
夫婦の戯れあいはまだ出来ないけど。
もう少しだけ、恋人同士の戯れを。