お前に全てはやれないよ?それでもいいとってくれるかい?
そ の 背 に 背 負 う も の
婚礼の儀を明日に控えた晩。熊野本宮では慌しく準備が行われていた。
こういう時大抵張り切るのは、主役ではなく周りの人たちで。
当然の如く女房やを気に入ったらしい母親があれだこれだと大変な騒ぎであった。
「これで、一応終わりかな?」
ああでもないこうでもないと花嫁衣裳やらなんやらで世話しなかったはふう、と息を吐いた。
「お疲れ様、」
「ヒノエくん」
宛がわれた部屋の前で、縁側に腰掛けるともう夜着に身を包んだヒノエが隣に腰掛ける。
手には酒の杯を持って。
「ヒノエくん、お酒飲んでたの?」
「ああ、ま、嗜む程度にね」
少し酔ったのか、ほんのりと頬は紅潮していた。
ヒノエはまだ十七だったが、ここでの世界の常識は通らない。ふうん、と呟いてヒノエが杯を煽るのを見ていた。
「どうかしたかい?」
「う、、ううん」
喉が上下にごくごくと動くのを、は思わず見つめていた。ヒノエがそれに気づくと、不思議そうに小首を傾げる。
「な、なんでもない・・・」
罰が悪くては視線を自分の膝元に移す。こと、と小さな音を立てて杯が置かれた。
「、」
名を呼ぶと同時にヒノエは床に置かれていたの白い手の上から自分の手を重ねた。
ちらりとが視線を上げるとえらく真面目な顔をしたヒノエと視線がぶつかる。
「ひとつだけ、確認したい」
「な、に・・・?」
ヒノエは心なしかのほうに身を乗り出す。そして真剣な表情のまま、口を開いた。
「前にも言ったけど、オレの背には熊野がある。お前を一番にはしてやれない。
心と命はお前にやるさ。だけど、オレはいつまでも熊野に捕らわれたままだ。それでもいいかい?おまえが、一番でなくても」
そのヒノエの言葉を受けて、はニッコリと笑んだ。きゅ、とヒノエ尾の手を軽く握り返して口を開く。
「そんなこと・・・いいんだよ。熊野を大切に思ってるヒノエくんだからこそ、好きになったの。だから、いいんだよ」
ね?と笑うにヒノエは少し眉尻を下げて苦笑いをこぼす。
「お前には・・・負けるね」
くいっと繋いだ手を引っ張り、軽く倒れこんだの身体を抱きとめる。片手は繋いだままに、反対の手をの背に廻した。
「全力で、お前を守るよ。俺の命はお前にやる。一生愛し続けると誓うよ、」
「うん・・・!」
こんなの、婚礼の儀でも聞けない。一生モノの愛の言葉だ。
はそんなことを考えながらヒノエの背中に腕を廻した。
この背に背負うのは熊野だけれど、
この腕に抱くのは君だけでいい。君ただひとりでいい。