水軍衆と新年の挨拶を済ませて愛しいおんなの待つ家に戻ってみたら、

「あ、明けましておめでとうございます」

その愛しいおんなが三つ指付いて出迎えた。









 新 日 










「何してるんだい…姫君」

オレは部屋の戸を開けたまま固まってしまい、なんとかに問掛ければはぐっと詰まった。

「あらあら湛増!帰っていたのですね。ほらどう?さんよく似合うでしょう?」

すすっと母上がの隣に座る。これは自分の若い頃の着物だとか云々いっていたが右から左へと流れていった。

「湛増、さんに何か言っておあげなさいな」

母上にそう言われてハッと我に返る。
普段は垂らしてある紫苑の髪がきっちりと結われていて、鮮やかな桃色地に、鶴が描かれた艶やかな着物が酷く優美だった。

「あ、あの、ヒノエくん…」

「…ああ、凄く美しいよ…

そっと近付き畳に置かれている手を取り甲に口付ける。瞬く間に赤く染まった顔を見て声を出さずに笑った。

「ひ、ヒノエくんっ」

「はは…っ!すまないね、姫君が余りに可愛いものだから」

「もうっ何言ってるのよ!」

あらあら、と横で母上が後ろに控えていた親父と笑い合う。親父が何事か母上に言うと母上は納得したように口を開いた。

さん、そろそろお食事の用意いたしましょうか」

「あ、はい!そうですね」

と母上はそう言って連れだって部屋を出ていく。
部屋に残されたオレと親父。にやにやと笑いながらこちらへ近付いてきた。

「よう馬鹿息子」

「何だよ糞親父」

「ひでぇ言い様だな」

「だから何だよ」

ぶっちょう面でそう言うと愉しそうにくっくっと笑いながら肩に手を置いた。…笑い方、弁慶とそっくりでいやがる。

「お前もああいう顔すんだな」

「はあ?」

「嬢ちゃん褒める時、すげぇ緩んでたぜ?水軍衆の前でするなよ」

思わず手で口元を押さえる。すると廊下の方からパタパタと言う足音。
ああ、の足音だと思い振り向けばからりと戸が開いてが顔を覗かせた。

「お義父さま、ヒノエくん、お食事の用意が出来ました」

「おう、今行くぜ」

「はい」

パタパタとまた戻っていく足音を聞いて、部屋を出た。










「ふう…楽になったあ」

食事も終わりあてがわれた部屋に戻ればは早々に普段の着物に着替えて結われた髪も解いてしまった。
荷が下りたかの様に座り込むにくつくつと笑う。

「ふふっ着物はお気に召さなかったのかい?」

「あ、違うの。ただちょっと気疲れしちゃって…」

「気疲れ?」

「余り着飾る事に慣れてないし…それに似合わないじゃない?あんなお姫様みたいな格好」

「そうかな?よく似合ってたけど」

「嘘言わないで。ヒノエくんだって黙りこんじゃったくせに」

「あれは…」

鏡台と対面してるの背にそっと近付き、結われて少し癖のついた髪をさらりと一房取る。
後ろを振り返ったの目を真っ直ぐ見た。

「見とれてしまったんだよ。…余りにお前が美しいから」

の顔がまた真っ赤に染まるのを見てオレはくすりと笑い髪に口付ける。
そのまま指に巻き付けたりと髪をいじりながらに話し掛けた。

「でも…あれだね」

「?」

「髪はこの方がいいな。は何でも似合うから結われているのもいいけど、こっちのがいじれるしね」

「いじれるって…」

「でも、髪いじられるの好きだろ?」

「好きって言うか…」

「言うか、何?」

「嬉しい、かな」

へへ、と照れた様に笑うが可愛くていじっていた手を止めまた髪に口付ける。顔をあげて頭に口付け、そのまま抱き込んだ。

「ヒノエくん?」

「お望みなら、いくらでも触ってやるよ、姫君。毛の先も全部オレのものだよ」

「ヒノエくんってば…」

笑いながらもはきゅって抱きついてきた。ぬくもりを感じる様に抱き締めて、目を瞑った。

「あ、そうだヒノエくん」

「うん?」

思い出したようにが言って少し体を離す。目と目が合うとにこっと笑った。

「明けましておめでとう、今年も宜しくね」

「ああ、もちろんだよ。此方こそ宜しくな」

多分親父に見られたらまたからかわれる様な緩んだ顔をしていたと思う。自覚はあるさ。オレはに骨抜きにされてる。
そんなことを考えながら今年になって初の口付けをした。赤く紅潮したの顔をかいま見てまた目を閉じた。










今年もまた、お前の側に居られるしあわせ。