目が覚めて1番に大好きな人の寝顔を見れる。
この上ない幸せな出来事。
目の前にある幸せ
「ん…」
小さな声を立ては眠りの世界から目覚める。小さく伸びをして横を見ると赤い髪の毛がふわりと頬を擽った。
そうだ、と思い出す。
昨夜はヒノエが会いに来ていた。
逆鱗は今も力を失っていないようで一週間ぶりの対面を果たしたのだった。恋する二人にとっては一週間もとても長い時間。
一週間の出来事を互いに話してる間にまどろみベッドの上で崩れ落ちるように二人眠った。
彼の寝顔には思わず頬を緩めふわふわの髪を撫でる。
あちらの世界では別当と言う地位に立つ彼には気が休まる時などそうそうないのだろう。
今週も此方に来る為に色々と無理をしたに違いない。
ちくりと胸に刺さる痛みを感じつつは音を立てずにベッドから降りた。
彼が起きないように細心の注意を払って次回の為に、と用意しておいた新しい服に袖を通す。
リビングに出ると母が出掛ける前に書いたであろう書き置きがあった。
世間は今夏休み。じーわじーわと言う蝉の鳴き声がやたらと響く季節。
はキッチンで二人分の朝食を用意し始めた。
「」
ことん、とテーブルに最後の皿を置き終えた所で声がかかり振り返る。
「ヒノエくん、おはよう。今起こしに行こうかと思ってたんだよ」
「そうか、それは残念だったかな。姫君の柔らかな声で起きられたら極上の目覚めだったろうに」
「もう、またそんなこといって。さ、ご飯食べよ?有り合わせのもので作ったから大したものじゃないけど」
「そんなことないさ。充分立派だよ」
美味そうだ、と言いながらヒノエが席に着く。
冷たい麦茶を持ってきたも席に座りいただきます、と揃って手を合わせた。
「今日は何処に行く?」
と言うヒノエの問掛けには散歩がいい、と答えた。
どうせなら遠くまでと言うことで藤沢駅まで出てウインドウショッピングすることになった。
「藤沢駅も久しぶりかも」
がきょろきょろしながら色々な店を見て歩く。ヒノエは一歩後ろからそんな無邪気なの姿を見ていた。
「ねー…あの人かっこよくない?」
ガラス越しにディスプレイを覗いていたの耳にそんな声が聞こえて思わず耳をそばだてる。
隣の二人組の女の子達は気付かずにひそひそと話し続ける。後ろで髪をかきあげる彼を見ながら。
「ほんとだ!赤い髪…あれ地毛なのかなあ?」
「染めてるんじゃない?一人なのかな?」
「声…かけてみる?」
その台詞には振り返る、ヒノエが此方を向いてどうした?と問掛ける。
その声にひかれるように駆け寄ってヒノエの腕に自分の腕を絡めた。
「?」
少し身じろぎたじろいだヒノエが名前を呼んでもは答えない。
「、どうしたんだい?」
小さくもう一度問掛けるとはぼそりと口を開いた。
「…あの子達が、ヒノエくんの噂してるから…」
やっと答えた理由は何とも可愛らしい理由で、ヒノエは思わず笑みを溢し、の額に軽く口付けた。
「…、可愛い」
後ろでは彼女達が口をぱくぱくさせていたがそんなことお構いなしのヒノエの態度には頬を赤らめながら小さく笑う。
ヒノエは絡めた腕を外し指を絡めて歩き出す。
「お前に悪い虫が近付かないようにね」
口元に人指し指を立てウインクをしてヒノエがそう言った。
はくすりと笑ってヒノエの手を強く握った。
二人の時間はまだまだこれから。