「ヒノエくん!ヒノエくんっ…!」

迷宮の最奥に横たわる彼を膝の上に抱えた。どうか、死なないで…!










u失 い た く な い 、 誰 よ り も 大 切 な 貴 方








ぎゅっと抱き締めても彼はぴくりとも動かない。
抱き締めた体は暖かく、微かに吐息が感じられる。
気絶してるのだろうか。
少し離れて見ても彼の烈火の如く赤い瞳は伏せられたままでみるみるうちに涙がこみあげてきた。
もう二度と、失いたくなどないのに。
視界が歪む。
彼が見えなくなっていく。
私の目を覆った水分は堪えきれずにぽたりと溢れた。



ぽたり、ぽたり、ぽたぽたぽたっ



「ふっ…う…ヒノっ…く!」

ボロボロと泣き崩れる。
彼の顔に私の涙が雨のように降り注ぐ。
ねぇ目覚めて、その瞳をもう一度見せてよ。

「姫…君」

小さなうめき声と共に彼の手が後頭部に回る。
慌てて体を離せば私の顔を見て苦笑いした彼がいた。

…」

「な、に…?」

上手く舌が回らない。
ヒノエくんの手に微かに力が入ってふっと唇が目元を拭った。

「泣か、ないで…」

「っ…!」

どうして。
どうしてこんな時まで貴方は私の心配するの?
自分が辛いのに、どうして?

「泣かないで、なんて、無理だよっ…!」

「オレは、の笑った顔が見たいんだぜ…?」

「そんなの無理だよっ…!ねぇヒノエくん、死なないで!置いていかないでよ!
一人にしないで!」

…」

「ヒノエくんが元気になるなら、私なんでもするからっ…!」

「なんでも、か。それなら…」

そこまで言って首にそえられていた程度の手にぐっと力が篭った。
急速に近付けられる。

「きゃ…」

「ちゅっ」

ほんの一瞬、触れた唇は音を立てて離れた。

「ひ、ヒノエくんっ!?」

さっきまでの瀕死状態が嘘のように起き上がる。
え?何?
どうゆうこと?

「ここまで愛しい姫君に言われて、死ぬほどやわな男じゃないよ」

ぱちんと片目を瞑って見せた彼を呆気に取られて私は見上げた。



ああもう、本当に敵わない。



目尻に残った涙を拭って彼の手を取って立つ。



貴方がいるなら、どんな相手でも負けはしないから。











死にそうなヒノエでした。