「ただいま、姫君」

「おかえりなさい!ヒノエくん!」









最後の恋にするなら君とがいいね








慣れたように軽い口付けを交わして屋敷へと入る。並ぶ手料理に思わず顔が綻んだ。
世話しなく動く彼女を後ろから羽交い締めにして、食事にしようと耳元で囁く。
少し赤くなった顔で分かったから離れて!と何時までも慣れないの態度に笑った。

「「いただきます」」

あの日ーオレが弱音を吐いた日からは笑顔を絶やさないようになった。
全身で幸せだと伝えようとしているようで、それがオレの漠然とした不安へのなりの答えだと言うこともわかっていた。
それでも嬉しかった。強引に浚った彼女が幸せそうにしている姿は単純に嬉しかった。

が笑う、が怒る、が照れる。
オレが言った些細な言葉に照れながら怒り、
そして最後には
「もう、しょうがないなヒノエくんは」
とふわりと笑う瞬間が好きだった。酷く愛しかった。

きっとこのオレの胸に巣食う漠然とした不安は何時までも消えない。
けどそれでもいいと思った。一日一日をこうして二人で幸せに暮らせるならばそれで。
それは酷く貴重で、それでいて大切なことだと思えたから。

「へぇ、腕上げたな。この煮物サイコーだよ」

「ほんと?嬉しい!」

思えば沢山の恋をしてきた。恋をして、恋をして、恋をして、に出会い、愛を知って。
愛しいと想う気持ちを知った。

此れが初めてで、最後の本気。

数えきれない努力をしてオレはを手に入れた。手放すつもりは毛頭無い。

「ねぇ姫君」

「何?ヒノエくん」

「白龍の神子がお前で良かったよ。出会ったのがお前で。お前の八葉になれてよかった」

「何?いきなりどうしたの?」

「最後の恋がお前で良かったって事」

「?」

「筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」

「え?な、何?」

「ふふっ、わからなくていいよ」

「えぇ〜?」

「ふふふっ」

が今目の前に居て、そして笑っていることが酷く幸せだと言うこと。









終わり
















あとがき

長かったシリーズ連載完結です。飽きずに最初から最後まで読んでくださった方はいるのだろうか…少し不安です。

ちなみに最後の和歌の訳は
「筑波山の峰から流れ落ちるみなの川の水が、積もり積もって淵となるように、私の恋心も積もり積もって、淵のように深くなってしまいました。」
と言う意味。
最初は遊び、もしくは動向を探るために近付いたヒノエも最後には本気で恋をしてしまった。ぴったりの和歌だと思います。
小倉百人一首なので皆さんには馴染みがあるかたもいらっしゃるかもしれませんね。第十三首、陽成院の和歌です。
ずっと小説に和歌を入れたいと言う念願が叶いました。便覧万歳!(笑)
それでは、ここまで読んでくださった方有難うございました。