「はー…」
は熊野の邸の縁側で一人降り頻る雪を見ていた。
しんしんと降る雪は自分の心に積もる想いの様では白い息を吐きながら空を見上げた。
「もう春、かあ…」
春になれば、はから藤原になる。
藤原、それはとても甘い響きに思えた。
「…?」
ぎし、と音を立てて縁側が軋んだ。振り返れば白い夜着に身を包んだヒノエがいた。
「ヒノエくん」
「眠れないのかい?姫君」
またぎしっと木の軋む音がしてヒノエがの隣に腰掛けた。
片足は縁側の上に上げたままなので着物の隙間から覗く足には何となく気まずくて目を背けた。
そっと手に触れてヒノエが呟く。
「こんなに冷えてるじゃないか…」
暖かいヒノエの手の温もりに、はほっと安心する。
「何を見てたんだい?」
「雪を、見てたの」
「雪?」
「うん」
その瞬間のが消えてしまいそうでそっと手を離して肩を抱き寄せた。
「…ヒノエくん?」
急に抱き寄せられてが上目で様子を伺うとヒノエは真っ直ぐ前を見据えていた。
「…はこれでよかったのか?」
「え」
それはいつか聞けなかった事。
聞くのが怖くて、聞けなかった。
「…何で、そんなこと聞くの?」
「、」
攻めるような視線に、たじろぐ。
強い意志を秘めた瞳。
迷いなんて何処にも見当たらない。
「私はもう選んだんだよ。ヒノエくんと一緒に生きるって」
はきっぱりとヒノエに言い放った。
ヒノエは眉をひそめ、眉尻を下げて言う。
「は…強いな」
「ヒノエくん?」
ふわ、と柔らかくはヒノエの胸に吸い込まれる。
「俺は…弱いよ」
「ヒノエく、」
「お前がかえっちまうのが怖くて、いつも不安なんだ。
こうしてお前を抱き締めている、今も」
「…ヒノエくんは弱くないよ。
弱くないから、熊野を守るって決めてるから、私が帰ってしまうのが怖いんだよ。
帰ったら、ヒノエくんは熊野を捨てて私を選ぶ事が出来ないから」
「酷いな、俺は。
お前には全て捨てさせて、俺は全てを手にいれようとして」
「私は、全てを捨ててなんてないよ。
だって私はたった一つの大切な人を選んだんだもの」
「…」
「だから、そんな事言わないで?私はずっと、ヒノエくんの側にいるよ」
「っ…!」
ぎゅっと力を込めてヒノエはを抱き締めた。
それこそ体の隙間などない程に。
「ヒっ…ノエくん、苦、しい」
のその呟きにヒノエが体を少し離し、の顔を覗きこむ。
胸を圧迫されたは苦しくて少し顔を赤くする。
「…、俺の花嫁になってくれるかい?」
「ヒノエくん、」
「オレと、結婚してください」
「…はい」
真剣な顔をしてヒノエが言い、は笑って答えた。
お互い顔を見合わせて笑って、寒いねって言いながら立ち上がった。
ヒノエの部屋へと二人は消えて、雪はいつの間にかやんでいた。
さあさあ手を繋いで 終わりのない旅の始まり