「帰さないよ」

いつか言ったそれは、半分本心半分冗談。

どんなに甘い言葉を囁いても落ちない彼女とのやりとりを楽しんでいた。

甘い言葉を囁けば赤くなって反応するのに、強気な言葉でさらっと流す。

今までのおんな達と全然違う異世界の彼女に少なからず、惹かれた。

凛とした横顔、柔らかい笑顔、誰よりも強い決意を秘めた瞳、大切な人達を守りたいと言ったあの言葉も、全部。

今は愛しくて堪らなくて―

「あの、ヒ、ヒノエくん…?」

愛しくて堪らなくて、抱き締めた。

離さない、離したくない。

「ヒノエくん、離して」

「嫌だ」

「離してよ、みんな、待ってるし…」

「そんな事、気にしないさ」

「ヒノエくんが気にしなくても、私が気にするの!」

もう!と腕の中から怒った様な声。

ククッ、と喉で笑いながら少し体を離した。

少し怒った様なの目をつ…と見つめる。見つめられた事に気付いたが気まずそうに顔を背けた。

腰に回した左手は離さないままに、右手での頬に触れる。

くいっと顔をこっちに向けて、親指で唇をつい、となぞりながらゆっくりと言葉をつむいだ。

「今は、」

頬を愛しげになぞりながら耳元に唇を寄せて囁く。

「今は、他の八葉の事なんか考えるなよ…。その瞳に、オレだけを、うつして―」

言うか言わないかの内にの唇に噛みついた。

はびっくりしたのかぎゅっとオレの衣を掴む。

角度をかえ、深く深く唇を貪る。

自然と腕に力が入り、の柔らかい体と密着した。

「愛してる…」

「愛してるよ、

「あいしてる」

「だから、何処へも行くなよ」

口付けの合間につむいだ言葉は、果たしてに伝わっているのだろうか。

、あいしてる」

その言葉を合図にさっきより更に深く口付けた。

「だから、…帰るなよ」

唇を離して、まだ息の荒いに伝える。

は顔をあげ、瞳は戸惑いがちに揺れていた。

「ヒ、ノエくん」

「あいしてる、あいしてる、あいしてるんだ」

馬鹿みたいに何度も繰り返して、を繋ぎ止めようと必死で、

滑稽だ、とオレの中でオレが笑った。

「ヒノエ、くん、私は」

「言うな」

余裕のない、いつもより低い声での言葉を留めた。

右手をす、と柔らかなの髪に差し込んで胸に引き寄せる。

「ずっと、オレの側に居ろよ」

ああ、これで肯定の言葉が聞けたならどんなにかいいだろう。

無理だとわかっていた。叶わないと、知っていた。

それでも恋心はとめられなかった。

恋の炎は際限なく燃え広がり、いつかオレのこの身をも焼き尽すだろう。

「…今だけでいいから、オレの側に―」

「…うん」

こくり、とは頷いて、それを受けて抱き締める力を強くした。

「愛してるよ、オレのたった一人の姫君」






呟いた言葉は、風に乗って消えた。










リ フ レ イ ン