あの後落ち着いて近くの公園のベンチまで移動した。
泣きじゃくる私の頭をヒノエくんは優しく撫でてくれて、
夕方の人のいない公園は二人だけの世界のようだった。

王子様

「…ねぇ、どうして白龍の逆鱗の事わかったの?」

ずっと疑問に思っていた事、白龍の逆鱗の事は誰にも話したことなかったのに。

「…ひとつは勘。
白龍の逆鱗と以上に似てると思って、それでね。
お前が余りに大事にしてるから何かあるだろうとはずっと思ってた。
だからあの夜こっそり拝借したんだ。
その後調べて、そして白龍の逆鱗と同じものだろうと推測した。
一か八かの賭けに出たのさ」

ヒノエくんが立ち上がって夕陽を見ながら話を続ける。
私は大人しく座ったまま久し振りに聞く甘い声に耳を傾けていた。

「…本当に来られるかは正直半々の確率だった。
使ってるのが白龍の神子であるではない、白龍の神子は自分の世界に帰り白龍は空に還った。
白龍の加護を受けていないオレが使えるのかすら使ってみるまではわからなかった。
の世界に跳べるかもわからなかったし、下手したら変な時代に跳んで巻き込まれるかもしれなかった。
どっちかって言うと失敗する要素のが多かったんだ」

そう言ってヒノエくんが上半身だけ振り返った。
泣き出しそうな切ない笑顔で、髪が陽を透かしてきらきら輝いて、何だか消えてしまいそうだった。

「それでもオレは挑戦したよ。
にもう一度会う為に、ね。
こっちに来て、色んな事に驚かされた。
を探してお前の世界を沢山見て回ったよ。
それでわかった。
やっぱりここがお前のいるべき世界だ」

「!ヒノエくん…!?」

「だから、これからもオレに逆鱗を貸してくれるかな。
オレは熊野別当藤原湛増。
如何なる時も熊野を優先しなきゃいけない。
けれどオレは欲張りだからお前も諦められない。
だから、会いに来るよ、お前に」

「ヒノエくん…」

思わず立ち上がってぎゅっと抱きついていた。
さっき、別れの言葉を言われるのかと心底怯え、身体の芯まで冷えた。
それ程までに好きになっている、自分。
逆鱗がいつまで保つのか、それは2人にもわからない。
暗黙の了解のようにいつか突然終わるかもしれない、とは2人共言えずにいた。
少しでも忘れていたくて、少しでも体温を共有したくて。
今だけは、もう少し。
静かに夕陽がビル群の影に沈んでいくのを見ながら、
私達は黙ったまま抱き合っていた。