白刃から滴り落ちる血液。
斬られた側は叫びながら崩れ落ち、斬った側は真っ青になって凍りついた。
堕 ち る
「!!」
真っ青になたまま後ずさるを後ろから抱き締めた。
「ヒ…ノエくん」
ゆっくりと振り向きオレを見ると小さく震えて泣き出した。
薄桃色の着物は返り血でところどころ赤く染まり、白い手にはべっとりと血がついていた。
「どうしよう…人を、斬ったよ」
声を震わせながら泣く。
持っていた剣は落ち、地面に刺さった。
「人の命を…奪っちゃった…」
どうしよう、と繰り返すはあまりにも儚くて、消えてしまいそうで、強く抱き締めた。
「ヒノエくん、血が、ついちゃうよ」
「構わねぇよ」
力の入らない腕でオレの体を押し返そうとしる。
赤く染まった手を掴んで、更に強く抱き締めた。
この腕の中から消えないように、と。
「ごめんな…」
錯乱しているに聞こえているかはわからなかったけれど、そっと呟いた。
こんなことになったのはオレのせいだから。
「、天気もいいし外へ出ようか」
「え?う〜ん…今日はいいよ。遠慮しとく」
「そう言わないでさ。ほら!」
「きゃあ!ちょ、ちょっとヒノエくん!!」
は嫌がっていたのに。もしかしたらこうなるのをわかってたのかもしれないのに。
…無理矢理連れだして、郎党どもに囲まれて。
余りに多い人数に、一人では立ち回れなくて。
守りきれなかった。
に剣を振らせたのは、オレだ。
「少しは落ち着いたかい?」
「うん…ごめんね」
血を洗い流す為に、ふらふらしてるを連れて水辺まで来た。
着物以外の、剣や鎧、手を綺麗に洗い流してそっと肩を抱いた。
は小刻に震えていた。
「…寒い?」
「ううん…」
じゃあ何で震えてるんだ、なんて聞けなかった。
聞かなくてもわかっていたし、聞いたらが壊れてしまいそうだったから。
だから、何も言わずに肩を寄せて抱き締めた。
も何も言わずに体を預けた。
「私、地獄に堕ちちゃうかなあ…」
ぽつりとが言った。
「だって、人の命を奪っちゃった。許されないよね」
「そんなこと言ってたら戦場にいる誰もが地獄行きだな」
「あっ…そっか」
ふふ、とは笑った。
けど何処か儚げだった。
「それ言ったらオレも地獄行きだぜ?」
「そうだね」
くすくすと笑いながら話す。
少しだけ戻った笑顔にオレは安心した。
「でも」
「え?」
「姫君となら、いいよ。となら、一緒に堕ちてもかまわない」
急に真剣な顔になったオレを、は驚いたように見つめた。
しばらくその状態が続いた後、柔らかくとが微笑んだ。
「私も、ヒノエくんとなら何処へだって行くよ」
それを聞いて、オレは笑った。
も笑った。
オレ達は「ずっと一緒だ」と固く約束した。