愕然とした。
昨日のしあわせだった時間は突然の終わりを告げ、優しかったあの人の態度が一変して。
何がなんだか、もうわからない。
「…輩?先輩?」
「譲くん…」
現実に引き戻されるように話し掛けられふと側にいた彼の存在を思い出す。
彼は物珍しそうにきょろきょろと渡り廊下を眺めた。
「凄いな…俺達本当に帰ってきたんですね。ずっと帰れないかもしれない、と思っていたのに…」
感慨深げに譲くんは言う。
それもそうだろう。
彼にとっては一年間帰れなかった世界。
全てを失い一度帰ってきた私とは違う。
「そう、だね…帰ってきたんだね私達…」
帰ってきてしまった。
愛しい彼のいない世界。
行った時と同じように服は戦装束から制服に戻っていた。
「そうだ…!」
自分の服を見て唐突に逆鱗の存在を思い出した。
だけど探しても見当たらない。
前に帰った時はあったのに…!
「何で、何でっ…!?」
「先輩!?」
「何でないのよぉっ…!」
大好きな人には無理矢理に帰されて、もう会う術なんてない。
永遠に、もう永遠に会えないのに。
あの熱いくらいの体温を感じることはもう出来ない。
瞳から溢れ出る何の役にも立たない涙をどうしようもなく流していた。
泣いて世界が変わるならとっくにそうしていた。
全てを失ったあの日に。
そしてもう私は何かを変える力を失った。
「ヒノエくんっ…!」
名前は乾いた冬の空に虚しく響いただけだった。
