行かないで、とは言えない。










そばにいたい、泣きたいくらい、君の熱を感じたい









?」

「あ、ヒノエくん!」

ぱしゃぱしゃと素足で水を跳ねさせて駆け寄ってくる。手も、足も砂にまみれていて。
さっきまでが居たその場所に作られた小さな船。
その船に乗って何処かへ行くつもりだい?オレのそばから遠くへ、行くつもりかい?
…やっぱり、帰りたい?

「ヒノエくん?」

いつの間にか目の前に来たに顔の前で手を振られる。
はっとしてを見ればどうしたの?ときょとんとしていた。

「どうもしてないよ」

あやすように頭を撫でると擽ったそうに目を瞑る。…まるで猫だね。







『うちのお母さんも心配してるのかな…って』



月に手は届かない。

あの日思い知らされた。

の居場所は、ここではないのだと。

帰る所があるのだと。



『行かないで』



言えたらどんなに楽だろうね。

やっと愛に気付いた、のに。

お前は遙か遠くだった。






、」

「ヒノエ、くん」

腕を引いて抱き締めても、もうは抵抗しない。それどころか遠慮がちに背中に腕を回してくる。



はなしたくない、


はなれたくない、


帰るな。


帰したくないんだ。





帰らないでくれ、行かないでくれ。
でも、の幸せの為には…?

「ヒノエくん…?」

腕の中で心配そうにがオレを見上げる。にこ、と作り笑いで隠してを離した。

少し不安気に離れて、そのまま海を見る。
嗚呼、その視線の先にお前は何を見ている?

「っ…おい!!」

「冷たーい!」

突然海に入っていくにオレは制止の言葉を投げ掛けるけどは聞かない。
そのままばしゃばしゃ海の中を進んで着物が濡れるか濡れないかのぎりぎりの位置で止まった。

「ヒノエくんもおいでよ!気持ちいいよ!」

そう言って手招きしながら笑うお前に、惹かれてやまない。

でも。

お前は月へと帰る天女ー…。

「ヒノエくん?」

動かないオレに呼び掛けるお前。
それを見て防具も外さぬまま海に入った。のいる所まで一直線に行く。

「ヒノエくっ…きゃ!」

そのまま抱き締めての体が少し沈む。そのまま息もつかせぬような口付けをした。

「ふっ…ん」

ぱしゃ、と小さく跳ねる蒼。
少しだけ濡れた髪に指をさしこんで絡めとる。

「んっ…ヒノ、く」



ちゅ、と音を立てて離した唇の間に惜しむように銀色の糸が伝った。
儚く糸が消えたのを見るか見ないかの内にの頭を引き寄せる。
左耳の下辺りに吸い付いて、紅い刻印を残した。

「これはオレの所有の証。お前は今までもこれからもオレだけの物だ」

「ヒノエくんっ…!」

目に涙を溜めて抱きついてきたを抱き締めてオレは思っていた。













天女が月に帰っても、オレのものであるように。


いつか、忘れられない印を刻む。












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ヒノエがエンディング前、神子と船に乗る事を決意した感じで書きました。
こちらは二万打フリー小説とさせて頂きます。
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