きっとは気付いてない。
ふとした時遠く、空の彼方を酷く切ない瞳で見ていること。










何もかも捨てて、俺を好きだって証明して見せて









そうして今日もまた遠くを見てる。
きっとその瞳に雲一つない青空なんて写っていないだろう。
写っているのはきっとー…
の世界。



「ヒノエくん?どうしたの?」

もうすっかり見慣れてしまった着物姿では振り返る。
いつものような花の笑顔にほだされそうになるのをぐっと堪え厳しい顔付きでを見据える。
普段と違うオレに気付いてかは不思議そうに首を傾げた。

「ヒノエくん?どうしたの?何か今日いつもと違うよ…」

「そうかい?それはきっとの事が好きで好きで狂ってしまいそうだから、かな…」

普段と同じ様に軽口を叩くけれどの額には更に皺が寄る。

「ヒノエくん、悲しそう。何かあったの?」

心配そうにそう言うにいいや?と返事を返し一歩近付いて眉間にとん、と指を当てる。

「眉間に皺、寄ってるよ」

くすりと笑って言う。
けれどもはやっぱり納得行かなさそうにオレを見据える。
そうして桃色に色付いた唇を開いた。

「何かあったなら言って?私、ヒノエくんにそんな顔されてるの辛いよ」

さっきまでの凛とした瞳の色は消え、悲しそうに眉尻を下げる。
その愛らしさに思わず抱き締めたい衝動に駆られるけれど何とか自制して口を開く。

「…じゃあ言うよ。は元の世界に帰りたいかい?」

「…え?」

酷く意外そうな顔をしてはきょとんとした。
それに構わずにオレは続ける。
不思議な事にいざ言ってしまえば言い切る事のが楽に思えた。

「いつも遠い目では空を見てる。

の瞳には空が写ってるけど本当は空なんて見てないだろ?

見てるのはお前の世界。

思い出しているんだろ?」

「え、」

図星だと言わんばかりにの目は見開かれた。
余りにもわかりやすいその態度にオレは内心苦笑いする。
うろたえるの細い腕を取ってそのまま引き寄せた。

「…帰りたい?」

いつもと違ってを抱き締めずに、ただ手を取って。
真っ直ぐに聞いた。

「ちが、違うよヒノエくん、私、」

「帰りたいなら帰りたいって言っていいんだ。選ぶ権利はお前にあるんだから」

「ヒノエくん、私っ…」

「さよなら、だよ

オレの言ったさよならにはこれ以上無いほどに目を見開いた。
途端にぶわっと溢れてくる涙に罪悪感と愛しさを感じながらヒノエは掴んでいた腕をそっと離した。

「さよなら」

背を向けたままにもう一度言った。
が土に膝をついた音が、どこか遠い事の様に聞こえた。