「じゃあとりあえず今日の所は帰るよ」
あの後、しっかりと繋いだ手を離さないようにして、すっかり暗くなった鎌倉の道を歩いた。
人気のない鶴ヶ丘八幡宮まで来て、そっと手を離した。
「うん…ヒノエくん、気をつけてね。あっちでも元気で」
「わかってるよ。またすぐ会いに来るさ」
ヒノエくんが私の頬に手を添えて柔らかく笑う。
その手の温度が暖かくて、心地よくて心のどこかがじんわりと暖かくなった。
「無理しないでいいから体に気をつけてね」
「馬鹿だね。オレが会いに来たいんだよ」
相変わらず他人に気を使わせないような物言いが上手いなあなんて思いつつ、その言葉がやっぱり嬉しくてつい笑ってしまった。
「また一週間後に会いに来るよ。仕事もあるからあまり早く会いに来れなくて悪いけど」
ヒノエくんがちょっとだけ困ったように笑うから私はぶんぶんと必死で首を横に振る。
気にしてないよ、会いに来てくれることだけで充分だよ。
伝われって思いながら首を振った。
そんな私を見てヒノエくんはくすりと笑って髪を梳いてくれた。
「じゃあまたね…」
逆鱗が光る。
ヒノエくんは真っ直ぐ私を見ていて、私もヒノエくんを見て。
何となく笑いが零れて二人とも笑ってしまった。
いち、
にい、
さん。
一瞬だけ触れ合った唇はあっと言う間に消えてしまって、閉じていた目を開けたらそこには彼の姿はなく。
さっきまで眩しく光っていた鶴ヶ丘八幡宮は暗く閑散としていた。
また会える保証なんてどこにもない。
ある日突然逆鱗が使えなくなるかもしれない。
けれど私も彼もどこか確信めいたものを抱いていた。
絶対に会えるのだと思っていた。
少しだけ寂しくて滲んだ涙を拭って、
私は無理やりに笑った。
一週間後にまた会える、そう思いながら家へと歩みを進めた。
じっと見つめてそっと笑ってみっつ数えて口付けしよう