何もかもを拒絶するかの様に向けられた背中を、私は黙って見送るしかなかった。
土に膝をついて、涙でよく見えない目でヒノエくんの背中を見ていた。
ねぇヒノエくん。
あなたにさよならされたら、私は何処へ行けばいいの?
もうすっかりヒノエくんの背が見えなくなった頃、私は涙を拭いて立ち上がった。
着物についた砂を軽く払って、ヒノエくんのいってしまった門を見た。
屋敷を出て、ヒノエくんが何処へ行ったかなんてわからない。
それでも私は追い掛けなければならないと思った。
伝えたい、言葉があるから。
町行く人に聞きながら私はヒノエくんを探していた。
緑深い森の中、水軍の人に聞いた場所へ私は向かっていた。
そして木々の隙間から赤い髪を見付け、私は駆け寄った。
「ヒノエく…」
ヒノエくんと言い掛けた言葉は目の前の光景に驚き、喉にそのまま残った。
ヒノエくんは切株に座っていた。そして頭を抱えるようにして、ー…泣いていた。
膝にぽたぽたと落ちる透明な雫に私は思わず駆け寄って抱き締めたい衝動に駆られた。
けどぎりぎりで耐えて、私は口を開く。
「…ヒノエくん」
小さく呼んだその声に、ヒノエくんはゆっくりと顔をあげる。
そしてまるで幽霊でも見るかの様に目を見開いた。
「…」
何でここに、と声にならないまでもヒノエくんの口がそう動いた。
私はそれを無視して伝えたい事を口にのぼらせる。
「ヒノエくん、私、帰りたいなんて思ってない」
「私確かに思い出してたよ。元の世界の事。
だけどそれは帰りたいからじゃなくて、ヒノエくんと一緒に行ったらどうなるかなとかで」
「私帰りたいなんて思ってないよ!
私の居場所はヒノエくんの側だけだもん!
ヒノエくんにさよならされたら私何処へ行けばいいの?」
そこまで言って、私は泣きそうになった。
これでもヒノエくんにさよならされたらどうしようと考えていた。
ヒノエくんは私をただ見ていた。
その視線に耐えられずに泣きそうになりながらも堪えて、言った。
「私、ヒノエくんが好きだよ」
「大好きだよ、ヒノエくんの側に居たいよ」
「あいしてる、よ」
そこまで言った途端関を切ったように涙が溢れた。
みられないようにいったん下を向いて、涙で歪んだ視界でヒノエくんを探した。
だけどもう切株にヒノエくんは居なくて、私は慌てた。
「ヒノエく…!」
ヒノエくんと言い切る前に私の体は苦しいくらいに締め付けられた。
何とかその正体を探ろうと体を離そうとした私に頭の上からかすれたような声が聞こえた。
「…」
「ヒ、ノエく…?」
名前を呼ぶと更に抱き締められて、息が出来なくなる。
少し腕に力を入れて隙間を作るとヒノエくんの舌が私の涙をなめとった。
「!ヒノエく…!」
「ごめんな、ごめんな。ごめん…」
謝りながらヒノエくんは瞼、鼻、頬へと口付けた。
そして首筋にちくりと小さな痛み。
するりと私の着物に手を入れてヒノエくんは肩をはだけさせた。
「やっ…!ヒノエくん!」
「、抱きたい」
「を感じたいよ。抱きたい」
真っ直ぐに言われて、私は戸惑う。
ヒノエくんは今まで抱きたいと言った事はなかった。
何処か遠回しだったり、いつのまにかだったり。
こんなにも真っ直ぐに求められて私はどうしたらいい?
愛しくてどうにかなりそうだった。
ゆっくりと私はヒノエくんの首に手を回す。
そして肯定の意を示す様に頭を抱き締めた。
「…」
「ふっ…なぁ、にぃ…?」
「あいしてる、よ。…ずっと、オレの側に、居て」
「ぅんっ…!うんっ!ずっと、ヒノエくんの側に、居させて」
苦しくて苦しくて苦しくて、こんな想いをあなたは知らない