「…ふぅ」

時空の狭間を抜けて見慣れた世界に降り立ってヒノエは何とはなしに息を吐いた。
移動してる間は方向感覚が曖昧でふわふわと不安定なので地に足が着いてようやく安心して息が吐けるというものだった。

人気のない山道、時刻は程よく夕暮れで、木々の合間から見える夕陽にヒノエは唇を押さえる。
別れの前にほんの数秒だけ合わせた柔らかな唇。
ふわりと香るの甘い香り。
思い出して何だか切なくて、ぎゅっと拳を作った。
こうして見比べてみればのいる世界と自分のいる世界が驚くほどに違うと言うことが嫌でもわかる。
何か固いもので覆われていて、歩きやすいかわりに木々がまるでないの世界。
不便なようで便利で、便利なようで不便だった。

に触れなければ自分が存在してるかすらあやふやになりそうなほど、他人に無関心な世界だと思った。
こうして未来の世界を知ることはきっと禁忌なのだろう。

歴史が変わる、

世界が変わる、

歪んでいく。

オレがあちらとこちらを行き来することも、当然のように禁忌で、誰にも知られてはいけない。
悟られてはいけない。
は逆鱗で、好きな時間に跳べると言っていたから不自然のないように見られないように慎重に。
存外に疲れる行為かもしれないとヒノエは思った。
それでも諦められないから、行ったのだけれど。

禁忌を犯していることは、オレもも承知している。
だけどそれでも諦められない気持ち、
大切にしたい相手がいるから、

オレは、お前に逢いに行く―










禁忌を犯した少年と少女