一度だけ、時空を越える先を間違えたことがある。










「……あれ、ここ、は」

いつも見ている風景。

時空を越えた筈なのに、あまり変わっていないのは何故?

「どうしよう…。とりあえず、歩いてみるか…」

森の奥の方へ歩いてみる。

今や大きいはずの樹木がまだ小さくてもしかして、と不安が起こる。

「何してんの?」

「え?」

突然後ろから声をかけられて振り向く。

「ここらじゃ見ない顔だけど、あんた誰?」

そこにいたのは…

「ヒノエ…くん」

「へぇ。この名前を当てるなんて、やるじゃん」

今よりも小さい、十歳前後のヒノエくんだった。

「あんた、オレのこと知ってんの?」

「う、うん」

「名前は?」



「ふーん…。、ね…」

品定されるように見られて居心地が悪い。

今より全然小さいのにヒノエくんは変わっていなかった。

「…おい、いい加減出てこいよ!」

「ヒ、ヒノエ…。その人は大丈夫なのか?」

「んー、多分」

がさがさと後ろの茂みから顔を出したのは

「敦盛さん!」

「え…?」

まだ小さい敦盛さんだった。

「何、敦盛も知ってんの?」

「え、うん」

小さい敦盛さんにはやはり鎖はついていなかった。

なんとなく、嬉しかった。

「何か、不思議なやつだな。!お前をオレ達の遊びに連れていってやるよ!」

「え?」

「ほら、行くぜ!」

「え、ちょっ!」

小さいヒノエくんの小さな手に引かれるままに走り出した。





その後は川や滝、海で水遊びをしたり、森で鬼ごっこやかくれんぼをしたり、

小さなヒノエくん達とたくさん遊んだ。

気付けば空はすっかりオレンジ色になっていた。

「もう夕暮れ時だな」

「あ、敦盛帰るのか?」

「ああ。すまないなヒノエ。そろそろ帰らなければ、兄上達が心配する」

「おう!じゃまた明日な!」

たたたっと小走りで走っていく敦盛さんの背中を見ながら、

私もそろそろ帰らなきゃな、と考えていた。

「で?」

「ん?」

「お前も帰るのか?」

こっちを振り返って、ヒノエくんが見上げて言った。

「うん、帰るよ」

の家って、何処だよ?」

「ずっと、遠く」

「歩いて行けないような所?」

「うん」

「もう…会えないのか?」

あ、この顔。

少し苦しそうに眉根を寄せる顔。

今のヒノエくんと変わらない。

「ううん、会えるよ。いつか、ね」

「いつかって?」

「ヒノエくんが、もっと大きくなったら」

くす、と笑って私はヒノエくんの前に屈んだ。

こつん、とおでこを合わせて笑う。

「約束だぜ?いつかオレが大きくなったら―」

そう言うヒノエくんの声を聞きながら、逆鱗を握った。

『お前を、花嫁にもらうから―…』










「懐かしいなー…」

「何がだい?姫君」

「ヒノエくん!」

木の切りかぶに座っていた私を、ヒノエくんが後ろから抱き締めてきた。

「大きくなったよね」

くす、と笑って私は言う。

ヒノエくんは少し驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。

「やっぱり、あれはだったんだな」

「!!覚えてたの!?」

「忘れるわけないだろ?」

ふふっと笑って、ヒノエくんは額に口付けた。

「初恋の人、をさ…」

「初恋?」

「そう、あれがオレの初めての恋だよ。ひとめぼれさ」

そうしてヒノエくんは不敵に笑った。

「約束どうり、お前を花嫁にもらうよ」

私の頬を包んで、ヒノエくんは言葉を落とす。

「あの頃からずっと、お前だけだったよ、

そうして唇に、甘い甘い熱を。










ずっと前から、君だけだった。