今日、街で仲良く連れ添う親子を見掛けた。





02 怖がらないで、甘えてごらん





この世界へ来てもうどれぐらいの月日が過ぎたのだろうか。
毎日、のんびりと。
時には慌ただしく流れる日々は、今までの時間の流れを変えてしまうような気がした。
そんな時に見掛けたのは、仲睦まじく連れ添った母親と子供。
「母上!」と呼びながら笑う子供に、いつしかの自分が重なった。

(…元気、なんだろうか、)

ふとそう思った。
こちらへ来て、気にしたことがないと言えば嘘になるが。
それでも。自分の心配をしているか、だとか。自分を捜してくれているのだろうか、だとか。
そう思ったことは数少ないことだった。

もう陽も沈み、今日も1日が終わろうとしている。
自室に籠もり、今日の情景を思い浮かべていれば少しだけ涙が滲んだ。
比較的にもしっかりとした性格の彼女だ。
けれど遙とて所詮は17歳という幼い年の功。
家族を慕うのも当たり前のことだ。



もし今、家族のように慕うとしたら誰を慕えば良いのだろうか。



皆を信頼していない訳ではない。
頼りになる、と思うことだって数え切れないあるし、頼りたい、と思ったことだって数え切れないほど。
それでも元ある性格の所為か、なかなか言い出せずに月日だけを過ごした。

?」
「え?」
「どうかした?随分物思いに耽ってたみたいだけど?」
「…そ、うかな?」

カタンと啼いたのは襖なのだろうか、それとも古びた廊下の板だろうか。
掛けられた声に振り返るとそこには片眉下げて微笑むヒノエが立っていて。
背に負った夕刻の空の色と彼の髪の色が調和して消えてしまいそうだ。

「…泣いてる?」
「…っ…」

足音ひとつなくに歩み寄ってしゃがみ込んだヒノエが、彼女の顔を覗き込んでそう聞いた。
いつもが答えられない時は決まって問い掛けて来る彼の仕草。
そうして自分の本音を引き出そうとしていることだって知っていたし、知っていたからと言って、そんな彼と駆け引きをする程、自分は器用じゃなくて。

「………ずるい、」
「うん」
「…ずるいよ、」
「そう?」
「ずるい、よ、…っ…!」

伸ばした指先が掴んだものはヒノエの腕。
縋り付くかのように指先に力を入れれば、じわりと浮かんだ赤の色。
ヒノエと同じ赤の色を見て少しだけ力を緩めれば、「構わないよ」とそっと髪を撫でられた。

「…ずるいって、分かってるんだけどね」
「え…?」
「でもこうでもしないと、お前は甘えてくれないだろう?」
「………ヒノ、」

彼の名前を紡ぐ前に。
泣き晴らして腫れた瞼にそっと降って来たのは彼の優しい唇で。




「…ヒノエ」
「うん?」
「ごめんなさい」
、」
「そ、それと!ありがとう」
「どういたしまして。お前の役に立てて光栄だよ」





そうしてまた。
じわじわと熱を持つ瞼にそっと触れて来たのは、彼の優しく暖かい唇で。








Gorilla Gorillaの乙葉かずねさんよりいただきました!!
最高です。ステキです!
惚れ惚れします。
ステキな小説を書かれているので、まだな方は一度行ってみては?