「綺麗だね」と言ってお前が触れた。

それだけでオレはもうこの髪を切ることは出来なくなった。





神に初めて感謝する





に出会う前は毎日のように違う女の子と楽しく暮らしてた。

それこそ、女なら誰でも良かった。

でも今じゃ、もうお前しか見えないよ…

「ヒノエくん!」

?」

春の下鴨神社、桜舞い散る中が駆けてきた。

「どうしたんだい?姫君。何かご用かな?」

は目の前で立ち止まるとぱっと顔を上げて「ううん」と言った。

「じゃあ、どうしたんだ?何も用がないのに追い掛けてきたのか?」

は「うん」と言った後うつ向いて

「迷惑だった…?」と言った。

「いいや、姫君に追いかけられて悪い気はしないさ」

微笑んでの頼りない程細い手を取り、

「花見でもしていくかい?」と言った。

手を取られたことに一瞬赤くなったも少し考えて「うん」と頷いた。

その言葉を受け、歩き出した。

「うわぁ…綺麗」

桜の木を見上げ、感嘆の声を上げたに「お気に召したかな?」と聞くと素直に「うん」と答えた。

の髪に桜の花びらがついていた。

くす、と笑っているとが「どうかした?」と聞いてきた。

「いや…姫君の髪に桜の花びらがついているのを見て…ね」

「え?どこ?」

繋いでない方の手で桜の花びらを探す、しかし見付からなくてオレに「取って」とせがんだ。

「おや…取るのかい?残念だな…。髪飾りみたいで綺麗なのにね」

そう言いながら花びらを取ってやるとす…との手が伸びてきた。

何かと思ったら手には桜の花びら。

「ヒノエくんの髪にもついてたよ」

と言ってくす、と笑った。

「姫君の髪は綺麗だからね、花びらも選んだんだろう。オレの髪に落ちたのは不慮の事故って所かな」

そう言うとはまさか、と言って笑った。

「もし花びらに意思があるのなら、花びらも選んだんだよ。だってヒノエくんの髪も綺麗だもの」

そう言ってか細い白い手でオレの髪に触れた。

「お前が綺麗だと言うのなら、この髪も捨てたもんじゃないのかな」

そう言うとは「そうだよ」と言って笑った。

その刹那、の手を引き、腕の中に閉じ込めた。

「ヒ、ヒノエくん…!」と言うの声も聞かず、ただ抱き締めた。

異世界からきた少女。

もし龍神の神子に選ばれなかったら、出会うこともなかったのだろう。

出会えた奇跡に、初めて神に感謝したー