「…ノエくん、ヒノエくん」

「ん…?」

「起きて。朝だよ?」

ゆさゆさと心地よく揺さぶられ、小鳥の歌うような声で名を呼ばれて。
目を開けて一番初めにいとしい人の姿を見られる幸せ。
でもその幸せには、いつも暗い影がまとわりついている。

ー…」

「あ、起きた?おはよう、ヒノエくん」

ふわりと花が咲くように笑んだいとしい女の首に軽く手を回しそのまま抱き寄せる。
は抵抗しない。

「…ヒノエくん?」

「…、帰るなよ」

今日も、お前が腕からすり抜けていなくなる夢を見たんだ。
笑いながら、お前はオレの目の前から消えちまうんだ。

「ヒノエくん、」

「帰るなよ、

ぎゅっと力を込めてそのままを抱きすくめる。
ああ、柔らかい。
さらりと落ちた髪が頬を霞める。
擽ったい。

「ここに居るよ、ヒノエくん」

ああ、そうだね。お前はそうして安心させてくれるんだ。
柔らかい声で名前を呼んで。
確かな彼女の重みが、ここに居るのだと実感させてくれる。

手の力を緩めてそっと体を離した。

「おはよう、ヒノエくん」

「おはよう、

朝の始まりは君の確かな存在を確かめること。

「愛してるよ、

そうして形のいい唇を味わう。
ああ、当に至福の一時だ。

お前は、絶対、帰さない。

















 帰 さ な い