「好き」だなんて簡単な愛の言葉を囁いて、おんなたちはいとも簡単にオレに落ちる。
恋愛なんて駆け引き勝負。体のいいお遊びだ。
娯楽なんて無い、そんな庶民の女達はひと時の火遊びに溺れる。
そして、オレが手に入らないと「ずるい」と泣くのだ。
オレは、誰にもやらない。誰も背負わない。
このセに背負うのは熊野だけで十分だ。
熊野の民を守ること、熊野の自然を守ること。それがオレに課せられた使命だから。
オレの全てはあげられない。たとえそれがどんなに愛した女でも。
火 遊 び
「姫君、お早う。起きてるかい?」
「あ、ヒノエくん。おはよう」
ふわっと花のように彼女は笑んだ。
誰よりも美しくて、誰よりも強い、誰よりも無垢な少女。異世界の女。
は「龍神の神子」としてこの世界にやってきた。
華やかで、艶やか。
なのに時々見せる凛とした表情に少なからず興味を持った。
「早いお目覚めだね。よく眠れたかい?」
「うんっ!もうぐっすりだよー」
同い年、にしてはすこしあどけない。幼さの残る笑顔。
そっと手の甲に口付ければ免疫が無いのか白磁の肌は熟れた果実のように紅く染まる。
「ひ、ひのえくんっ!」
慌てた声色。泳ぐ視線。新鮮なの態度に興味は引かれていく。
「姫君は、本当に可愛いね」
ふふっと笑って流し目でもしたら彼女は赤くなり、抗議の声を上げる。
「もう〜。そういうこと言うのやめてって、言ってるのに」
恥ずかしいじゃない、ぶちぶちと呟く。
過敏な反応は見せるのに、落ちる気配などまるで無い。
つかめそうでつかめない。手が届きそうで届かない。まるで空に浮かぶ綿雲のようで。
・・・本気になりそうになる。
火遊びだ、これも。他愛無い、恋の駆け引き。
落としたほうが勝ち、落ちたほうが負け。本気になったら、最後。
「好きだよ、」
愛の言葉なんていくらだって囁ける。それで火遊びが楽しめるならば、いくらでも。
「まずいな、お前に興味が湧いてきたよ」
嘘なんていってないさ。それは紛れも無い事実。
だけど、本気になんてなってやらないよ?
オレの背には熊野がある。お前に全ては渡せない。
だから今しばらく。
騙しあいをしようか。言葉の駆け引き、恋の駆け引き。
愛の言葉ならいくらだって囁ける。それが愛しいお前なら尚更に。
「好きだよ・・・」
まだ、感情なんてこもってない空言でも、お前の心に響くかな。
さあ、火遊びを始めようか。
その白磁の肌を、また赤く染めて。