暖かな風が吹き入る。
風に乗った桜の花びらが一枚、まどろみの中にいた赤い髪の青年の上に舞い落ちた。
「んん…」
元々眠りが浅い青年はすぐに瞼を開ける。
自分に触れた物の正体が庭から吹き込んだ桜の花びらだと知り、口元を弛めた。
日は高く登りはじめていた。
青年は小さく身動きをすると安心しきった寝息が聞こえ、そちらに体を向ける。
顔にかかった薄紫の髪をさらりと取り後ろに流す。
いとしいおんなの柔らかな寝顔が見えて、彼、ヒノエはしあわせそうに笑った。
極上の絹の様な髪を一房取り、指に絡めて口付けて。
目覚めない美しき眠り姫の目尻に触れるだけの口付けを落とす。
「ん…」
みじろぐ彼女、に目を細目、柔らかな肌に触れた。
真っ白な寝着から覗く肌に無数の赤い華。
昨夜付けた所有の証を見て満足げにそれをなぞった。
つつ…と肌を滑る指にが微かに反応した。
それが愛しくて、ヒノエは昨夜付けた痕の上から口付ける。
また小さく反応したのを見、吸い付いた。
「あ…ぅん」
昨夜付けた痕の上に赤い痕。
白い肌にひろがったのを見てヒノエは満足げに笑う。
目の前で眠り続けるいとしいおんなを起こそうかどうしようか迷っていた。
早く碧のその瞳にオレを写してほしい。
その鈴音の様な声で名を呼んでほしい。
けど、その寝顔を見ていたい気もする。
考えあぐねた末に耳元で小さく囁く事にした。
これで起きなかったら寝顔をもう少し見ていよう、と決めて。
上体を少し起こし、耳にかかる髪を避けて顔を近付ける。
いつもより低い声でこう囁いた。
「おはよう、朝だよ?…。早くお前の笑顔を見せて?」
「んん、ん…」
「…」
するとがゆるゆると目を開けた。
目の前の人物を確認すると見る見る内に笑顔になって、こう言った。
「おはよう、ヒノエくん」
そう言うや否や直ぐ様眠りの世界に戻ってしまったのだけど。
「ああ、おはよう、…」
ヒノエはそんなが愛しくて愛しくて、こんなしあわせはきっともうないと思いながらを抱き寄せた。
しあわせを噛み締めながらヒノエもまた眠りの世界に戻って行く。
いとしいおんなを抱き締めたまま。
こんなしあわせは初めてだった。
愛しさで胸がはち切れそうになる、こんなしあわせ。
花を散りばめて散りばめて 鮮やかに華やかに艶やかに