「すき、」

風に舞う花びら。

「きらい、」

ひとひらひとひら、

「すき、」

ふわりふわり、

「きらい…」

風に舞う。








に 散 る   に 咲 く









京の山近く大原の花畑には一人座り込んでいた。
たまたま目に止まった花をそっと手折り、花びらを一枚引っ張る。
現代で花占いと呼ばれる確証もない占いをは行おうとしていた。





一枚一枚花びらを抜いていく。
すき、きらい、と唱えながら。
花占いの結果は花びらの数が問題だ。
それはもわかっている。しかしそれでもきらい、と出ればやはり悲しいもので。

「きらい…」

そう呟きながらは最後の一枚の花びらを抜き去り、片手に残った茎を落とした。
はあ、と深い溜め息をついてうつ向く。
例えデタラメな占いと言えど好きな人との相性占いだ。
きらい、と出ればそれはショックで。
もう一度はあ、とは深い溜め息をついた。

「さて、オレの姫君は何でこんなに憂いた顔をしているのかな?」

近くに生えていた木からざざあっと葉の擦れる音と共に何かが降りてきた。

「ヒノエくん!?い、いつからそこに…!」

「姫君がここに来る前からいたよ」

ヒノエが歩み寄りながらそう告げる。
では最初から聞かれていたのだとは背中が冷えていくのがわかった。

「きらい、と出たのがそんなに悲しいかい?

そっとヒノエが両手での頬を包みこんだ。
は困惑の色を露にする。

「そんなの当たって無いのに。オレの言葉より花を信じるのかい?」

わざと悲しげな顔を作りヒノエがに問いかけた。
でそういうわけじゃないと言いながらも口ごもる。
するとそんなの様子を見かねたヒノエはふっと口元を緩ませた。

「冗談だよ」

「え?」

「嘘だよ、姫君。別段気にしてなんかいないさ」

そう言いながらの額に軽く口付ける。
ちゅ、と小さく音を立てて離れて言ったそれには顔を真っ赤にした。

「ヒ、ヒノエくん!」

「なんだい?姫君」

くすくすと楽しそうにヒノエが笑いながら言うからはからかわれたのだと顔を真っ赤にさせたままヒノエを睨みつけた。
あまり効果のないその行為にヒノエはわざと肩をすくめおお怖い、とおどけてみせた。

「ヒノエくんは、いつもそういうことばっかりするんだから」

もう、と諦めた様な呆れた様な声では言う。
そんなに破顔しながらヒノエは耳元に唇を寄せた。
そしてわざとかすれたような少し低めの声で話し掛けた。

「でも…嬉しいね。がオレのことそんなに思ってくれてるなんて」

その声色には背筋がぞくりとした。
きゅっと目を瞑ってやりすごすと髪に柔らかな感触。
恐る恐る目を開いて見ればヒノエが髪に口付けていた。

「ヒ、ヒノエくんっ!また…!」

慌ててヒノエから離れるとヒノエは愉快そうに笑っていて。
またからかわれたのだと赤くなりながら片手で顔を隠した。

「じゃあそろそろ帰ろうか、

空いてた片手を引っ張られ強引にを立たせるとそのままその白い手を握りこんで歩き出した。は驚いて口を開く。

「ヒノエくん、手…」

「離してなんかやらないよ。姫君のお願いでもそれは聞けない」

振り返りながらやたらきっぱりとした口調で言われは困惑する。
反論しようとした時その行為は一本の指に抑えられた。
そう、ヒノエが指をの唇に当てたのだ。

「今はオレだけのものだろう?…だから離してなんてやらないよ」

それは小さな独占欲だった。
にとってそれは嬉しくも恥ずかしくもあり、また顔に熱が集まるのを感じた。
そんなに気付いてかヒノエは唇に寄せていた指を外し歩き始める。
ヒノエに連れられて歩きながらは自由な片手で自分の頬に触れた。

(…熱い)

自分の頬の熱さには少し苦笑いを溢して目の前を歩く少年を見た。






花占いなんて不確かなもの信じない。
確かなものは彼がくれるから。






はそんなことを考えながら二人きりの帰り道を歩いていた。