「しら、しらしら白石」
「俺はしらしら白石なんて名前とちゃうで」

原因不明の頭痛が酷くて保健室のドアを開けたら包帯をくるくる器用に巻いている白石と目があった。
白石は包帯を巻いている手を止めてぽかんとアホみたいな顔で私を見ている。あーあイケメン台無しや。せやけどアホ面してても決まるってどないやねん。顔整いすぎやろ。

「…何してん、壁にゴリゴリ頭擦り付けて」
「あーたーまーいーたーいー」
「頭痛いんはわかったけど禿げるで」

ほらこっち来、と白石が腕を引いて保健室独特の黒い丸椅子に座らされる。

「頭痛い頭痛い頭痛い頭痛い」
「バファリンでも飲む?」
「飲む」

手際良く薬箱の中からバファリンを取り出してコップに汲んだ水と一緒に手渡してくれる。
早く効けーと念じながら二粒を一気に飲み込んだ。
バファリンの半分は優しさやから四錠飲まな効かへんのやないやろかなんてアホなことを考えた。

「バファリン飲んだのに頭痛い」
「そらすぐには効かへんわ」
「うー痛い痛い痛い」

痛さに耐えられず丸椅子でぐるぐる回る。白石、壁、薬棚、戸、ベッド、白石。
壁、薬棚、戸、ベッド、また白石。
そんなことを考えながらぐるぐる回ってると白石に回転を止められる。

「何すんねん」
「むしろ何してんねん」
「気を紛らわせとるんやないか」
「他のことで紛らわせや」
「せやったら壁に頭打ち付けてくるわ」
「アホか、やめぇや」
「ほなまた回る」

白石、壁、薬棚、戸、ベッド、白石。
壁、薬棚、戸、ベッド、しらい…白いもの?

「アホ、やめや言うとるやろ」

頭の上から白石の声が聞こえて顔を上げたら白石の真面目な顔があって、頭の後ろにある固い棒のような腕の感触に抱き締められているんだとやっと気付いた。

「えっしししし白石!」
「せやから俺はしししし白石って名前ちゃうわ。薬効くまで離したらへんで、このまま大人しくしとき」
「効いた効いた!もう効いたから!」
「嘘言うな」
「ほんまやて!堪忍し…いたた」
「ほら嘘やった。暴れるな言うとるのに」
「白石が変なことするからや!あいた」
「あーあーほらもう」

白石の包帯巻いてない方の手が頭をくしゃくしゃと撫でる。
そのまま前髪をあげられて、左手で頭を抱えていた右手首を掴まれて白石の白いシャツが近づく。
焦点が定まらないくらい近付いたところで、額に柔らかいものが一瞬当たってすぐに離れた。

「しっしらっいまっ」
「早く治まるようにおまじないや」

白石は私の手首を掴んだまま絵みたいに綺麗に笑う。

「…あかんわ白石」
「ん?」
「今ので頭痛吹っ飛んでもうた」
「そら良かったわ」
「よかないわ!」










平和な日常にはほど遠い










「なんでよかないねん」
「(もうまともに顔見られへんやないか!)」
「おーいー?」
「(顔覗き見んなぁ!)」