おはようございます皆さん。突然ですがわたし、今朝、おっさんに痴漢されました。最初は「ん?なんか尻がごそごそしてるな〜」程度に思っていたのですが、ふとももの内側だの尻の谷間だのに指が割り込んできた時点でこれは痴漢、痴な漢と判断し振り向き様に肘鉄、鉄拳制裁。電車内騒然。わたしも殴る前にしおらしい悲鳴のひとつでもあげていれば痴漢されていたのだと乗客の皆様にも理解して頂き易かったかなーとは思ったのですが気がついたら無言でこのエロオヤジを殴っていたので仕方ないもう後の祭り。はたから見ればわたし電車内で急に暴れだした変な女子中学生にしか見えないでしょうから思いっきり駅員のお兄さん3人くらいに取り押さえられたりしました。いや、取り押さえるべきなの、わたしじゃねぇよ、そのオヤジだよ。

言いたいけどあまりの怒りで声も出ず、声が出たと思ったらこんなお下品な言葉で。「てめーのケツも掘ってやろうか、ああ?カマオヤジ!」 誤解されました。なんかやっぱりわたしが悪いみたいな空気になっちゃいました。マジかよ。




「…、本当に酷い目にあったよ雲雀」
「へぇそれは素敵だ」
「いや全然素敵じゃねーよ。お前人の不幸喜ぶ人間なんてろくなもんじゃないですよ。ウジだよウジ」
「痴漢された事に逆上して暴れて補導されそうになるのはろくな人間のする事なの?雫。もっと他に上手い解決法があるだろ」
「だってむかつくじゃん」
「ああそう。君なんて本当に補導されればよかったのにね。暴力少女と誤解されて」

雲雀がしれっとした表情のまま呟いて、そっと目を伏せて優雅に紅茶を飲み干す。くそう、おまえもむかつくな。わたしはぎりぎりとはんかちのひとつでも噛み締めたい衝動に駆られたけど、ハンカチが無かったのでお茶請けに入っていたビスケットをばりぼりと喰った。結局、あのあと、痴漢のオヤジが目を覚まして、もう二度と痴漢なんて働きませんからご勘弁を…!みたいなかんじのことを口走って自爆したからどうにか帰してもらえたけど、下手したら痴漢された上理由無き暴行という不名誉なレッテルを貼られて補導されるところだったのだ。そうなったら最低だ。親が泣く。なんかムカつく。あと高校受験がやばい。あとなんかムカつく。

「わたし全然悪くないし」
「そお。痴漢されるくらい隙があるのがいけないんじゃないの」
「うわぁ、いいんちょ、最低だよその発言。するほうよりされるほうが悪いっての?」
「悪いよ。気をつけないからそんなことになるんだ。どうせぼーっと突っ立ってたんじゃないの、君のことだから。」

むかつくむかつくむかつく。どうしてこいつはこんなにむかつくんだ?女の子のことなんか全然わかっちゃおらんよ。だいいち、隙を見せるなってどうやったらいいっつうんだよ。わたしなんかまだ振り向き様にオヤジをぶっとばすくらいの気概のあるおんなだからいいけど、普通の可愛くて、女の子らしい、「ちかんされたなんて誰にも恥ずかしくていえないわ…!」みたいな子だったら、雲雀の発言聞いて泣いてるぞ。わたしは益々イライラするので、さらにぼりぼりビスケットを食べる。欠片がぽろぽろ床に落ちて、雲雀が眉をしかめていたけど、知らない振りした。ばーか、雲雀バーカ。センサイな女の子の心をぜんっぜんわかってくれないような男はビスケット塗れの応接室をあとでひとりぼっち掃除すればいいのだ。ばーか。

「…それにね、ひとりで暴れてどうにかしようと思う前に、周りの人に助けを求めるとか、あるでしょ。出来なかったの?」
「だって痴漢されてるんですうう!なんてみっともないじゃん言うの。可愛い子ならまだしもわたしが助けとか求めたら可哀想の前に滑稽でしょ」
「君は存在が滑稽なんだから今更そんなこと気にする必要ないだろう」
「帰らさせて頂きます」

またまたしれっとした表情のままでそっとめを伏せて優雅に紅茶を飲み干す雲雀に我慢なら無くなったので、ビスケットの欠片をぼろぼろ落とすのも途中で放棄して帰ることにした。な、ん、だ、あのクソ風紀委員長!男尊女卑!女の敵!つか存在自体が滑稽って何だ!そんなに滑稽かわたしは!ああ滑稽さだから痴漢されても「大丈夫?」と誰一人に言って貰えないのさ!むしろ「君、ちょっと駅長室までご同行願おうか」みたいな犯罪者扱い受けちゃったりするのさ!そしてそれをもしかしたらちょっとは心配してくれるんじゃないのか〜?と淡い期待を込めながら雲雀に話してみても、本当に補導されればよかったのにとか隙があるからいけないとか存在が滑稽とか言われ、言われて、あ゛ークソむかつく、泣きそう。いや誰が泣くかこんなことで下らない。電車で帰って今朝の駅員さんたちに遭うのが癪だったので、学校から家まで走って帰った。遠いよ、クソ。真冬の夕方の寒さの威力を、貴方は知っているか?それはもう下らなくて流れなかった涙がうっかり流れてしまうほどに心と体を凍て付かす。








翌朝でんしゃにのったら何故か雲雀が居た。

「…何で雲雀がわたしと同じ電車に乗ってるわけ」
「バイクが故障した」
「歩いて来いよ」
「ヤダ、面倒。ねぇ、普段から電車ってこんなに混んでるの?酷い空気、まるでゴミ溜めだ」

お前は何処のお坊ちゃまだ。ちゃっかり椅子に腰掛けて、ドアのすぐ傍で身動きがとれなくなってる、無様で、そして こ っ け い な!!(強調)状態のわたしを気だるく見上げて、雲雀が眠そうな目を何度も瞬かせる。解けて首に引っかかっただけになってるマフラーから除く頬っぺたが象牙みたいに甘ったるく白くて、雲雀と比べると確かにこの電車の中の空気はゴミ溜めみたいに見えるかもしれない。わたしはもちろんゴミ溜め族に配合されているんだけど。あの、向かいの席のお姉さんとか綺麗だから、ゴミ溜めというより雲雀族かもしれない。無駄に高潔そうで、汚れなくて、見ているこっちを不安にするほどに美しい。

「こんな大勢の中で暴れたんだから、そりゃ駅員も取り押さえようとするよね」
「しょうがないでしょ、カッとなっちゃったんだから」
「乱暴者」
「あんたには言われたくないよ」

がたがた、がたがた、と、いつもの景色が流れていく。電車の中は、暖房が効いてるのか、ただ単に、いっぱいひとが居て、空気が蒸れてるのか、わかんないけど、何だか暑かった。あたまが、のぼせてしまったみたい。雲雀の横顔ばかり見てる。時々なにかをお前が呟くので、わたしは可愛くない返事をだらだら返す。雲雀は眠そうで、男の人にしては長い睫毛が、重たそうに下を向いていた。頬に影が出来そうだった。雲雀はわたしに隙があるから痴漢されるんだ!なんて言ったけど、隙があるのは雲雀のほうだと思う。

…つーか、わたしが痴漢だったら、わたしより雲雀の方、触ったりするけどな。男なのは少し問題だけど、こんなに綺麗ならもう、いいじゃないか。まぁ男だから〜とかいうまえに、雲雀のお尻にちょっとでも触ったりしたら、本気で一瞬で殺されてしまいそうだから絶対しないけど。

と、考えて、ぼんやりしていたら、わたしの背後に誰かが入り込んできて、そいつ、すごく、なんとなくなんだが、いやな感じ、がした。はい?振り返りたいけど、ああ満員電車。身動きが取れない。ぺったりと、わたしの体に誰かが張り付く。うわ、うそーん。これ、もしかして、アレ?二日連続?ぞぞお、と怖気がする。後頭部に、生温かい息が…うお、あ、これ、ちかん?痴漢?痴漢と判断していいのか。それともただの自意識過剰?やだなー、どうしよう。雲雀が、近くにいるのに、こんな、ねぇ、また、痴漢されたなんてばれたら、本当にわたしが隙だらけだからというスゴク腹立たしいファイナルアンサーが出ちゃうよ。…う!わ、やばいやばいやばい、どうしよう。誰か、気付いてくれ、そこのおじさん!いたいけな、女子中学生が、今ただ今スカート弄られそうになってますよー、ほら気付け!そして駅員を呼べ!わ、わ、ほんと気持ち悪い。ど、何処触ってんだ、キモイキモイキモイ!ひ 雲雀、助けて…あ、や、ヤダ!やっぱやだ!雲雀に、こんなことされてるとこ、みられたくねーよ。もう話しかけられなくなるよこんなシーン見られたら。

足を必死に閉じて、お尻以外に被害が及ばないようにする。お、おい、それ以外触ったら、マジぶっころすかんな!へんたい!いやもうけつでも正直ころしたいからなおまえ身動きとれるようになったらおぼえてろ。前歯折ったる。ああ、もう、どうしよ、泣けてくるよこんなの。あのさぁ、わたし、滑稽だよ。滑稽人間で、おっさんに振り向き様に肘鉄を食らわすような可愛くないおんなだけど、前歯おったるとかいうけど、ちくしょう、すきな、すきなおとこのまえで、こんな、なんだこのえすえむ。死ね、死ねへんたいしね、変態さんしんでください。そしておねがいですからこのわたしのまえでうとうとしてるおとこのこに悟られない程度でまんぞくしてください。お尻で終わってください。雲雀に知られたらわたしほんと死、「あのさぁ、雫。」ぬ。

「きみ、いつまで黙ってるつもり?もしかしてそこの変態に触られて喜んでる?」

ねむったとおもっていたのに、急に目を開いた雲雀が、冷ややかに言って、わたしはうっかり目から水が出た。人間ってあまりに唐突に傷つけられると目から水が出るもんだ。恥ずかしくて声が出なくて、どうしてこいつはこんなひどいことをいうのだ、と思った。喜んでるわけ無いじゃん、いやにきまってるじゃん。わたし、雲雀に、雲雀に、こんなとこ、見られたくなかったから、ああでも、雲雀には、そんなこと関係ないよね。わかんないよね。わたしがおんなのこって、おまえはしってんのか?本当にこんなとこ見られたくなかった。

わたしの色んなところを弄って張り付いてきた奴は、雲雀に気付かれて驚いたみたいで、急に離れて、わたしは自由になった。いや何処がだ。全然自由なんかじゃない。立ってられなくて、ふらふらと手すりにしがみついた。膝ががくがくしてる。なんだぁ、わたしすごく可哀想な感じだぞ。雲雀の顔が見てられなくて、たくさんのことが怖くて怖くて、しゃがみこんで顔を覆ったら、ぎっと何かの軋む音がした。で、頭の上を、ヒュッと空気の切れるような音がした。風が吹いた。そして、ぶこん!という鈍い音がして、わたしのすぐそばに、とん!と何かが着地したような音がして、そのあと何か大きなものが盛大に倒れたような!どべしゃあっ!という音もした。その間、僅か5秒程度。ぞくぞくと湧き上がる、悲鳴とか、怒声とか、駅員さんの「君!ちょっとなにしてるんだ!」というわたしが昨日エロオヤジに肘鉄した際に聞いた声が連続して響いて、そのうえ電車が停止、「なみもりー、なみもりー、快速磯山は乗り換えです」間延びした癖のあるアナウンス。

「雫、立て!」

急に雲雀がわたしの肩を掴んで、無理やり抱えられて立たされて、状況をちゃんと見て、理解する前に雲雀に引っ張られた。え、ええ?!雲雀に殆ど引き摺られるみたいにして走りながら、振り返って見えたのは、電車の中で、吹っ飛んで倒れてるおじさん。周りに群がる乗客の皆さん。わたしたちに何か叫んでる駅員さん。走りながら、走りながら、でも、切符はちゃんと改札に突っ込んで、駅を飛び出して逃げに逃げて、雲雀にぎゅううっと握られているてのひらは、べたべたに湿った。あ、暑い!きつい!涙が乾いてしまって、雲雀の頭は強風に煽られてぼさぼさになった。ええ、ちょっとこれ、どういうことですか。あ、やべ、脇腹痛い。走りすぎて。

「ひ、雲雀、あんた、一体何、を ?!」
「飛び蹴りを」
「とびげり?!なんで?!なんで雲雀がとびげりしてるの?!」
「ちょうど蹴ると良さそうな位置に君に触った男の顔があったから」

雲雀がやっぱりしれっとした、涼しげな顔のまま言って、立ち止まってからわたしのほうを見た。マフラー、どっかに落としてきたんだろうか。なくなってる。頬っぺたは、ずっと走ってきた所為なのか、いつもよりほんのちょっと赤みがあった。ヒトっぽい。わたしが息切れで死にそうなのが嘘みたいに、雲雀は息ひとつ乱さないで、座り込んで咽るわたしを見ている。雲雀は暫くわたしのこと見下ろして、なにか考えてるみたいな顔してたけど、くちびるをきゅっと結んだまま、しゃがんでわたしの背中を撫でた。信じられないくらいぎこちないてつきで、驚いた。ひとに触るのが初めて、みたいな手つきだった。だけど、わたしは、それが、おなかも、胸も、頭も雲雀でいっぱいになってしまうくらい、いとしい。ちかんに触られた時の、きもちわるい、怖気が、すうっと溶けていってしまったような気がした。咳が収まって、雲雀を見上げたら、雲雀は少しだけ首を傾げて、もういちどゆっくりわたしの背中を撫でた。

「なんですぐ、助けてって言わないんだよ、おおばかもの」
「ひ 雲雀に、ちかんされてるなんてばれたら、やじゃん。恥ずかしいから、しられたくなくて、」
「うるさい。君の意志なんて無視だ。僕は僕の意見を尊重させて貰う。嫌がったって無駄だよ」
「はあ?雲雀の意見って、なに」

「僕以外に君が触られるのなんて耐えられないね」

雲雀が、しゃがんだまま、しれっとした顔のまま、長い重たそうな睫毛のまま、わたしの背中に触れたまま、ぎこちなくないキスをした。わたしのくちに。思いっきり。時間は短かったけど、1秒か2秒とかそれくらいだったけど、それはわたしにあまりに衝撃的で、キスのあと、また、すぐに咽た。すごく、咽た。雲雀は今度はわたしの背中を摩ってくれないで、そのかわりわたしの頭をりょううででぎゅうって抱きしめる。驚いた、雲雀はこんなにも甘い動作をするのか。もふもふしている黒いコートに顔を押し付けて、わたしのつむじに雲雀がくちびるをつけた。膝ががくがくした。

「君ってほんと隙だらけだよね」
「ふつうあそこでちゅうされるなんて思わないっつ、の」
「雫がまた他の奴に触られたらたまんないから今日からぼくがずっとそばにいる」

雲雀、あんた自分がどんなにとんでもないことをおっしゃっているのか自分でわかってるんだろうか。わたしがびっくりして顔あげたら、今度はくちびるのはしにちゅうされる。ちょお、ここ一応外ですよ?!人気の無い場所まで逃げてきたは良いが外ですよ?!だけどわたしはぜんぜんいやでなく、 むしろ嬉しい、ああくそ嬉しいよ、今度は嬉しくてなみだでそうだよ。げんきんだけどおじさん二人を各自ぶったおしてしまったことも忘れてしまいそうだよ。運悪く2日連続ちかんされたことだってすっかり忘れてしまいそうだよ。だってこれからは雲雀がそばにいてくれるんでしょう。

「昨日だって僕が家まで送ってあげようって思ってたのに勝手に帰るし」
「だってあれば雲雀がむかつくことばっか言うからじゃん」
「あのね雫、先に言っておくけど僕は口下手なんだよ。だからそこは君が想像力を働かせて僕の本当の思考を読んでくれないと僕らこれから上手くなんてやってけないよ。すぐ喧嘩だ、破局だ。いやだろ?」
「そんなこと言っても雲雀わかりにくいんだもん なんかヒントちょうだいよ雲雀の思考を読むヒント」
「はぁ、君ってほんと馬鹿だね。すぐにヒントに頼ろうとする姿勢ってそれどうかと思うけど?考える力が欠如してるから自分の身ひとつ守れないんじゃないの。痴漢されてろ」
「ひどっ!あ、ほんとだこのままじゃわたしたちすぐ破局だよ少なくとも今わたしは泣きそうだしね どうやって雲雀の考えなんて読めばいいの」

「簡単だよ。君は思いっきり自惚れればいいんだ。ヒントはひとつだけ、僕は君がだいすきだよ、雫」

雲雀が、珍しく楽しそうに笑っていった。くちべたなんて、嘘じゃないのか。こいつ。てのひらをとられて、また立ち上がらせられて、わたしのあたまにやさしく雲雀がさわった。

「…ねぇ雲雀。せっかくだから今日は学校休んでふたりでどこかいこうよ。デートしようぜ初デート」
「何言ってんの君、よくこの僕に学校サボろうなんて下賎な提案が出来たね。今この場で罰してもまだ生温いくらいだ」
「え、ええ…!い、今のは、どうやって雲雀の本心読めばいいの?つか今の本音?デートとかちょうしこいてすいません」
「雫、全く君は修行が足りないよ。早くすんなり僕の思ってること理解できるようになってくれないと。さっきヒントもあげただろ?」
「いや、だけど今のはどうヒントを駆使しても…」

「『悪くないけど、君、僕になにかされても知らないよ』っておもってた」

またしれっとした顔で言う雲雀に衝撃とか恥ずかしさとかうん大体が照れ?うん照れ!のあまりうっかり肘鉄しそうになったら、思いっきり止められてにやりと笑われた。「目の前で雫を他人に触られて、僕がどれだけ悔しかったか思い知らせてやる」 ええ、ちょっと、この風紀委員長全然風紀守ってませんよ?!



嘘つきが、恋人。




(フリーですのでご自由に持ち帰りください!)(雫さんリクありがとうでしたー!)20061226 ナナ

てーわけで水槽のナナさんからいただいちゃいました!雲雀雲雀!残念なことに閉鎖されてしまうそうなので慌てていただいてきました・・・。