彼女は酷く冷たい女やった。
冷たいっちゅーても態度やないで。精神的なそれではなく、肉体的に冷たい。
彼女は深刻な冷え症やった。
冬は勿論夏も冷たい。
抱きしめても手を握っても、彼女が温かくなるより先に自分の体温が奪われていくんが先やった。
「蔵が冷えちゃうよ」
そう言いながら困ったように笑う彼女の顔が俺はとても好きやった。
去年の夏、彼女に「これ以上蔵の体温奪うわけにはいかへんわ」とふられて以来彼女に触れていない。
一年経って、中三の夏休みは終わろうとしている。
全国大会で青学に負けて以来毎日を緩慢と過ごしていた。
本当は知っていた。彼女が陰湿ないじめを受けていて、それを理由に俺と別れたこと。
悲しげに笑う彼女に俺はただ一言「そうか」としか言えへんかった。
「(財前頑張っとるなぁ)」
保健室からはテニスコートがよく見える。
先日引退したテニス部では唯一の二年生レギュラーやった財前が部活を率いている。
「(あとで顔出すか)」
んーっと伸びをした時、ガラリと保健室のドアが開いた。
「先生、絆創膏…」
目が合って、お互いに固まってまう。
一年ぶりにまともに見た彼女は、少し大人びていた。
「…」
「あ、蔵、保健委員やったんやな…先生は?」
「今ちょお出とるねん、絆創膏やったっけ?」
「お、おん…紙で指ぱっくり行ってもうてん」
「そら痛いなぁ」
なんとなくよそよそしさを感じながらも絆創膏を渡すと、切ったのが利き手やったんかなかなか上手く貼れない。
貸してみ、と絆創膏を奪って向かい合って貼ってやると近さにはっとする。
「お、おおきに」
「おん。…相変わらず冷たいんやな」
「冷え症はそう簡単に治らへんわ」
「なあ、知っとった?」
「ん?」
「俺の体温はな、にわけるために合ったんやで」
「蔵…」
「今もや。今もにわけるためにあるんや。まだ好きや。なあ、忘れられへんよ」
「く、ら」
「に体温、分けたってもええ?」
「だめや」
「」
「私は、自分勝手に、蔵を傷付けて」
「傷付いたんはお前やろ?知っとったよ、俺のせいでいじめられてたんやろ?」
「え…」
「何も出来へんくて、ほんまごめん」
「ええの、ええんやそんなん」
「もっかい俺にチャンスくれや。なあ、抱き締めさせて?」
「だめや、蔵」
「ええって言うてや。ええって言うて」
「蔵…」
「好きなんや」
「っ…私も、好きや」
俯いて呟いたを抱き締めて、一年の空白を埋めるように腕に力を込めた。
「蔵、好きや。好きやで…」
「俺も好きや。抱き締められなかった一年分、温めたるわ」
そう言ったら困ったように笑うは一年前と変わっていなかった。
彼女の体温は如何にしても冷たい