「じゃあ34ページから続きね」

「ははははい雲雀…先生」

「うんじゃあとりあえずそこ音読して」

「ははははい!!」

今私は冷や汗をかきながらこころを読んでいるのだが、何故かと言えば一週間前
に遡る。
私はどちらかと言えば勉強は得意な方なんだけどどうしても国語だけは苦手なの
だ。
何故かって言われればあれ、あの「作者の気持ちを答えなさい」が大嫌い。
そんなもん知るか!!って思ってこの間のテストで「先生の気持ちは先生にしかわ
かりません。(20字)」って答えたら凄い大きな×を頂いた。
「〜の気持ちを」ってところに全部同じような答えを書いたもので点数は散々だ
った。
だから現代文なんて嫌いなんだ…!
そして容赦ない担任から追試を申し渡された、のを雲雀に見られた。
冷や汗を流して振り返ればそれはもう鬼のような形相でトンファーを掲げた雲雀
がいて、有無を言わさずに応接室に連れ込まれ勉強を強いられたのだった。

「今の所までで先生の気持ちの動きは?」

「わかりませ
ガツンッ!
「少しは考えたら?
すすすすみませんでしたぁぁぁ!!」

普段はって呼ぶくせに名字で呼ぶし、眼鏡もかけてるし(似合ってるけど!)
冷徹な目で見下ろし間違ってれば即制裁。
考えなければテーブルが凹む、こんな状態で私は一週間も勉強しているわけであ
る。
明日には追試だから今日が最後の雲雀先生なんだけどさ。早くここから逃げたい
…。
この一週間で5kg痩せたよ5kg。

「じゃあ今日はここまで。」

「(ほっ…)」

「総復習にこのワーク解いて」

「!えっ…ちょ、ひば」

「全問正解しなかったら咬み殺す」

「(目が本気だーーー!!!!)」

「時間はいくらかかってもいいから。はい、始め」

「(そして非情!!)あ、ああ…」

それから一時間、私はワークとにらめっこしている。
この場合の主人公の気持ちに一番近いものを答えよ。
あ、憎しみ い、悲しみ う、怒り…。
いや、わからないって。だって私主人公じゃないもん!!もう泣きたい!!
雲雀は「こういう問題は文章中に答えが書いてあるよ」って言ったけどどこに!!
どこに書いてあるのそんなもん!!
ううう…こうなったら咬み殺されるの覚悟で埋めよう…。埋めない方が酷い目に
遭いそうだ(ガタブル)
えーっとえーっと あ、憎しみ かな…。とりあえず あ にしとこう。
そんな感じで雲雀に言われたことと勘を頼りに二時間かけてワークをとききった

やった…!私やったよ…!普段だったら絶対投げ出したけども全部埋めたよ…!
ひとりで感動しきっていたら
「終わったの?」
と無感動な雲雀の声が響いた。
わあ…(テンション急降下)
雲雀は黒縁の眼鏡を上げてワークを捲る。
消しゴムかすの多いワークをゴミ箱の上で払って真隣で採点を始めた。肘と肘が
ぶつかる距離だ。
近い、近すぎる。
ビクビクして少し横にずれると雲雀が同じだけ詰めてくる。
応接室の上質な広いソファーなんだから広く使えばいいじゃないか!!

「ふぅん、残念。一問不正解だね、

あー!!やっぱりー!!
雲雀がニヤリと笑う。凄く嬉しそうに見えるのは気のせい…?

「一問だけなんて、頑張ったね」

「え…?」

そういえば雲雀は一問不正解と言った。
一冊のワークに対し一問て、これ普通に凄いんじゃないの!?

「頑張ったね、一週間スパルタしたかいがあったかな」

「雲雀!!有難う雲雀!!」

ガバッと抱きつこうとしたら雲雀がガシッと顔を掴んで止めた。
ちょっと…女の子にその扱いはないんじゃない?

「痛い痛い!何すんの!」

「…、僕はまだ先生なんだけど」

「え、だってもう終わったんじゃ」

「まだだよ。まだご褒美をあげてないだろう?」

「ご褒…美?」

「そう、ご褒美。」

採点用の赤ペンは豪華な(この一週間でボロボロになったけどな…!)テーブル
に転がして雲雀の顔が近付いてくる。
レンズの中の雲雀の瞳に私の呆けた顔が映っている…そう思ってたら急に見えな
くなって、雲雀が目を閉じたのだとわかり慌てて手を突きだした。

「ダメー!!」

寸での所で雲雀を押し戻すと雲雀は明らかにムッとした顔で口を開いた。

「…何で?先生に反抗する気?」

「せっ先生が生徒に手を出すのはいけないと思うんですけど!!ど!!」

「…ふぅん、わかった」

必死で言うと意外にもあっさりと雲雀は離れていって拍子抜けした。
かけていた黒縁の眼鏡がカツンと無機質な音を立ててテーブルに置かれる。
雲雀の右手がぽかんとしたままの私の腰に回されて―
何かを言う間もなく唇が重ねられた。

「んっ…んんっ、ひば、」

「…もう先生ごっこは終わりだよ、。ご褒美にキスも何でも出来る。一週間分
だよ、覚悟して」

あ、雲雀が久しぶりに名前で読んだ。やっぱり雲雀には名前で呼ばれるのがいい
なあ嬉しいなあ。
雲雀にされた久しぶりのキスでお馬鹿さんになってた私の両手首を雲雀が掴んで
、ニヤリと笑ったままもいちどキスして私の体は立派なソファーに倒されていっ
た。
自分の置かれた状況に気付くのは、あと一分後。




さんねんびーぐみ雲雀先生!




(二周年ありがとうございます!)