「あ〜相変わらずくそ暑い部室だなあもう!」
部室に入り鞄を投げて窓を開ける。
パタパタと手で仰ぎながら椅子に腰掛けて鞄から借りたばかりの雑誌を引っ張り出して開いた。
「ちーっす…ってあれ、先輩だけっすか?」
「赤也、早いじゃん」
「早く着替えないと先輩達ウルサいじゃないっすか。先輩も着替えなきゃ!」
「え?何言ってんの?今日レギュラーはミーティングだって昨日言ってたじゃん」
「ええ!」
なんだよ〜…と言いながら赤也はへなへなとしゃがみこむ。
私はそんな赤也の頭をくしゃっと一撫でして雑誌に目を移した。
「先輩何見てるんすか?」
「今年の流行る浴衣、のページ」
「浴衣?何でまた」
「ほらー幸村が退院したことだしみんなで夏祭り行くって決めたでしょ?それで新調しようかなーって」
「なるへそ。そう言うことなら俺、これがいいッス!」
馴れ馴れしく私の座ってる椅子の背後から抱き付いて赤也が雑誌の中から一つの浴衣を指す。
「へぇ…意外。黒なんだ。もっと明るい色かと思った。」
「だってこれ金魚柄ッスよ?可愛いじゃないッスか!」
「…」
「えっちょっと先輩何で無言で頭撫でるんスか!?」
「いやぁ可愛いなぁって思ってつい」
「っ!そんなん先輩のが可愛いに決まっ…」
「はいそこまでー」
「丸井先輩っ!」
「ブン太ーおはー」
「何いちゃついてんの、お前ら。付き合ってんの?」
「そっ…」
「あっはっはナイナイ!それより何?不機嫌なのー?」
「!…(先輩正直過ぎる…ちょっと傷ついたッスよ俺…)」
「べぇつに!んで、何の話してたわけ?」
「あー浴衣見てたら赤也が金魚柄が可愛いなんて言うもんでつい撫でてた」
「へーぇ」
「ブン太だったらどれ?」
「俺はこれかな」
隣のイスに座って足を組み、ブン太が浴衣を指す。
赤也はいつの間にか離れていた。
「あーブン太っぽいブン太っぽい!黄色に朝顔かぁ。可愛いなぁ」
「でも俺はにはこっちがいいと思うなあ」
「「「うわっ!?」」」
「ふふ、気付かなかった?」
いつの間にか幸村がいて一つの浴衣を指していた。
「びっ…くりした…いつの間に来てたの幸村」
「マジびびったッス…」
「心臓にわりぃ…」
「ふふ、ごめんね。で、この浴衣どうかな?」
「(謝るの先輩にだけかよ!)」
「(しかも超どうでも良さそう!)」
「んー?ピンクの花柄?可愛いけど私のイメージじゃないなぁ」
「そうかな?」
「そうだな、にはこっちじゃろ」
「私は幸村くんの意見に賛成ですね」
「何でみんな急に出てくんの!んで?仁王はどれがいいって?」
「これじゃこれ」
いつの間にかブン太がいるのと逆側に座り肩に手を回してトントンと指で雑誌を叩く。
「薄紫に藤の柄?大人っぽ過ぎるよ」
「そうでもないと思うが」
「柳!」
「にはそう言った薄い色合いも似合うと思うぞ」
「うーわー参謀に言われるとその気になっちゃうよ!」
「そうじゃろそうじゃろこれにしんしゃい」
「何の話をしてるんだ」
「真田!ジャッカル!珍しい取り合わせだね」
「うむ、そこで会ってな。それより何の話だ?」
「あっそうだ、真田ならどの浴衣がいい?ジャッカルも!」
「ふむ…浴衣か」
「これなんかいいんじゃないか?」
「うわっジャッカルの絶対無理!私中学生だよ?」
「そうか?似合うと思うぜ」
「黒地に大きい真っ赤な薔薇なんて無理無理ー!ねっ真田は?」
「ふむ…これなんかどうだ」
「えっ…え、これ?」
「ああ。何だ?」
「紺地に白で紫陽花か…なかなかいい趣味をしているな弦一郎」
「意外…普通だった」
「やっぱブン太もそう思う?」
「ああ…」
「でもやっぱり雑誌だとに似合うかわからないよね、今度見に行かない?俺と」
「えー幸村と行ったらピンク押しでしょ?やだー」
「じゃあ先輩っ俺と俺とっ」
「はい赤也黙れー?俺と行こうぜ。俺が天才的に選んでやるよ」
「あーブン太とならいいかも」
「だろぃ?」
「て言うか全員で行ったらいいんじゃね?」
「…。そっか!」
「てめっジャッカル歯を食いしばれ!」
「うわっ丸井何怒ってんだ!?」
「じゃあ明日は練習終わりに全員で浴衣選びだー」
「ふっはうなじが綺麗だからな、浴衣がゆく似合うだろう」
「えっほんと!?わーいじゃあチャームポイントうなじって言おう!」
「誰にですか?」
「サッカー部の田中くん!」
「ふぅん…サッカー部の田中ね…プリッ」
「潰す…」
「ただでは済ませないなぁ…フフ」
「えっ何この不穏な空気!」
「田中…成仏しろよ…」
「ちょっとジャッカル何祈ってんのー!?」
翌日から田中くんに避けられることになったのは言うまでもない。
うなじはチャームポイントに入りますか?