ぱたぱたとキッチンに向かいながらは悶々と考えていた。
何を考えていたかと言えば雲雀恭弥のことである。

の通っていた緑中は並盛と近かった為雲雀恭弥の噂は流れてきていた。
風紀委員長で有りながら不良のトップに立つ男。
口癖は「咬み殺す」で男女共に容赦がないことで有名だった。彼の前で群れたら命はない、神出鬼没な彼はいつどこで現れるかわからないのでみんな恐怖していた。
そんな彼を恭弥と呼び、今から食事を用意しようとしている。人生何が起こるかわからない。漠然と考えながらはキッチンに入った。

step2 セクハラ上司の優しさ

「出来た?」

キイ、と重苦しくドアが鳴いた。入ってきた雲雀はタオルで髪をがしがしと拭いている所でキッチンからは顔を出した。

「あ、もう少しで出来るから待って」

その言葉に雲雀は頭を拭きながらキッチンに入ってきて、ぽたぽたとシャツに落ちる水気には顔を歪め雲雀に近寄った。

「ダメだよ恭弥、ちゃんと拭かないと」

「めんどくさい。どうでもいいよ」

「どうでもよくない」

は頭一個分高い雲雀の髪に手を伸ばし髪を拭き始める。元来触られることを好まない雲雀は一瞬振り払おうと考えたが思いがけず細いの指の感触は払いのけたら容易く折れてしまいそうで雲雀は思いとどまった。それに大人しく拭かれていれば何だか気持ち良く感じた。

「はい、終わった」

するりとの手が雲雀の髪から離れる。なんとなく離れていくのが惜しい気がして雲雀はその細い腕を掴んだ。

「な、何?」

途端には驚いたように目を見開いて雲雀を見る。大きな黒い瞳に自分が写っている。雲雀はくすぐったい気持ちになって腕を放した。

「…何でもない」

そのまま雲雀は口を開かなかったのでは首を傾げて調理に戻る。雲雀は自身の手を眺めながら彼女の腕の細さを思っていた。

「出来たよ恭弥」

唐突にに声をかけられ(といっても雲雀が考えごとをしていたので唐突に感じただけなのだが)雲雀ははっとする。顔をあげると純和風の料理の数々を持ってが立っていた。

「あのー…そこどいて貰えないとご飯並べられないんだけど…」

言いにくそうにがごもごもと口を開く。雲雀が立っていたのがキッチンとリビングを繋ぐ出入り口だったのでは困って立ち尽くしていたのだった。雲雀は無言での持っているおかずを奪い食卓まで持っていく。呆気に取られながらもは無言で手伝ってくれる雲雀にくすりと笑みを浮かべ残りのおかずを持ってキッチンを出た。

「今ご飯と味噌汁入れてくるから座って待ってて」

「僕も行くよ」

「やだ、平気だよ。ご飯と味噌汁くらい」

の分もあるから一人じゃ運べないだろ」

「え、」

「夕飯食べないの」

「いや、えと、食べます」

「そう、じゃあ行くよ」

雲雀は素っ気なく言ってまたキッチンへと向かう。もその後をぱたぱたと続いた。

「先ご飯ついじゃうから恭弥ご飯二人分持っていってくれる?」

「やだ」

「えぇ?」

「味噌汁ついで。持っていくから」

「わ、わかった…」

雲雀にそう言われはご飯をつぎ、キッチンに置いて味噌汁をついだ。雲雀に渡そうと振り向くと思いの外雲雀の顔が近くにありは一歩後ずさった。その衝撃に揺れた味噌汁が波を描きの腕に少量かかった。

「熱っ」

「!!」

途端に声を上げたに雲雀は目を見開いての両手の味噌汁を大理石張りのキッチンに置くと強く腕を引いて勢い良く出した水道の水に当てた。

「冷たっ」

「馬鹿じゃないの君は。これじゃ僕が味噌汁運ぼうとした意味がないだろ」

「え…?」

不機嫌そうに眉間に皺を寄せた雲雀の横顔をは見る。火傷しないように雲雀は気を使ってくれたのだ。言葉で言わない不器用な彼を少し愛おしく感じては頬を緩ませた。

「…何笑ってるの」

「な、何でもない」

と言ってもその微笑みは雲雀に睨み付けられたため数秒で消えてしまったのだけど。





あの後に火傷の治療をして食事を一緒に取り片付けをに任せて雲雀は自室に戻っていた。やけに広い自室の真ん中にあるベッドの上に足を投げ出して座り眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
何を考え込んでいるのかと問われればそれはの事に他ならない。
料理のよく出来る何故だかほっとけない危なっかしい彼女。いつ怪我するかわからなくてハラハラするのに不思議とイライラはしなかった。思い浮かぶのは彼女の笑顔ばかりで。
雲雀はそこまで思い巡らしてハッとした。こんなの自分らしくない。たかがひとりのおんなの事を悶々と考えているなんて全くもって自分らしくない。雲雀は尚一層眉間に皺を寄せた。

コンコン

控え目なノックの音。この家には自分以外にはたったひとりしかいないからその相手は容易に想像出来た。
雲雀は短く「入って」と言って彼女を招き入れた。

「恭弥」

ドアを開けて自分の名前を呼んだのは紛れもなく先程まで考えていた彼女だった。風呂の後なのか髪の毛からはポタポタと水滴が黒いスーツへと垂れていた。

「どうしたの。そんな格好して」

「ボスから指令です。これから急遽任務が入りました」

「…任務?」

「最近ここらで幅をきかせているマフィアが本日立ち入り禁止の波止場の第三倉庫で八時半集会があると先程連絡が入り、これ以上のさばらせる訳にはいないので壊滅する事になりました。今回は獄寺さんとの共同任務になります」

「あいつと…?嫌だな」

「そうは言ってもボスの命令ですから。今すぐ準備をお願いします。私も行きますから」

「わかったよ。…ところで、君そのまま行くつもり」

「そのつもりだよ?もう銃も、ほら」

不思議そうには言ってぺらりと短いスカートをめくってみせる。その足の白さに雲雀は一瞬目を見張って目を逸らしてため息を吐いた。

「そうじゃなくて。そんな濡れた髪のままで行くのかって言ってるの」

「あ。」

今気付いたと言わんばかりには胸くらいまである髪の毛に目を遣る。

「お風呂上がりに通信が入ったから慌てて出て来て…」

「そんなことだろうと思ったけどね」

言いながら雲雀は近くまで来ていたに手を差し出す。は不思議そうな顔をしてその手に自身の手を差し出すとあっという間に指を絡め取られ引っ張られてベッドの上に横倒しになった。雲雀の腕の中に倒れ込んだは反射的に瞑っていた目を開くと目の前に雲雀の顔があって後ずさる。が、すぐ後ろには壁が待ちかまえていては壁に背中をついた。

「恭、弥」

「黙って」

寸前まで近付いてきた雲雀の顔にはもう一度目を瞑る。途端に髪にぽすん、と何かが置かれた。

「へ…?」

が恐る恐る目を開くと雲雀がベッドサイドに置いていた自分が使っていたバスタオルでの髪を拭いていた。柔やわと撫でるように触れる指がくすぐったくてはきゅっと雲雀の白いシャツを掴んだ。

「…拭けたよ」

数分静かな時が続き雲雀が言う。ゆっくりと離れていく指にもシャツから手を離す。

「あ、ありがとう…」

近い雲雀の顔に赤くなった顔を隠そうと俯きながら目だけ上げては言う。雲雀は離しかけていた指をそのままの少し湿ったスーツの肩にかけて自分の胸に寄せた。

「きょ、恭弥っ!?」

急に抱き寄せられては困惑する。雲雀はお構いなしで抱き締めては益々混乱した。

「っつ…!!」

「…少しは気にしなよ」

「え?」

「あんまり可愛いことしてると、襲っちゃうよ」

「な、何言って…!」

「それと、下着見えそう」

「!!!!」

はばばっとスカートを直して雲雀を突き飛ばして立ち上がる。ドアの前で振り返って「ちゃんと用意しといてね!」と赤い顔で叫ぶと乱暴にドアを開けて出て行った。
雲雀はが出て行ったドアを暫く見つめて、それから己の手にあったタオルを見た。のシャンプーの匂いがさっきまではあんなに近かったのに今はこのタオルに残る残り香しかなくて雲雀はタオルにそっと口付けを落とした。





雲雀セクハラ…!(笑)超楽しかった!(掻き消えろ)