「雲雀恭弥さんですね?」

そう言ってにっこりとは笑った。

step1 我が儘王子を手懐けろ

「…そうだけど、君、何」

任務が終わり自分に宛がわれた屋敷に帰れば見知らぬ女が自室に入り込んでいて雲雀は眉を顰めた。

女は窓を背にわざとらしいくらいにっこりと笑う。一歩踏み出して何か手紙のようなものを雲雀に差し出した。

「…何」

「申し遅れました私ボスの紹介で恭弥さんの身の回りの事をすることになりましたです。以後お見知り置きを。」

彼女、は雲雀にボスからの紹介状です、と言って手紙を渡す。
雲雀はまだ信用してない顔で隙を見せないように手紙を奪い取る。
確かに手紙の外に書かれているサインは綱吉のもののようだ。慎重に手紙を開くと中にはこう書いてあった。

「前略 雲雀さん
任務お疲れ様です。
かねてから雲雀さんが仕事の報告などの庶務をお嫌いだと言っていたので庶務及び家事等を受け持つ人物をそちらに派遣しました。
名前は、雲雀さんと同い年で緑中の出身者です。
詳しいことは同封した写真と身辺調査書を参照してください。
それでは失礼します。
敬具

沢田綱吉」

「信じていただけましたか?」

「うん」

が小首を傾げながら問えば雲雀は小さく溜め息をついて頷いた。確かに綱吉の字だ。
それにこういった書面の偽造を防ぐための透かしが手紙には入っていた。
雲雀は同封された写真と身辺調査書をデスクにしまい他をほぼ置物と化している灰皿の上で燃やした。

「何でもしてくれるんだっけ?」

手紙に火をつけた雲雀は唐突にそう言った。

「はい!何でも致します!」

「じゃあとりあえず敬語禁止」

「え?」

を認めてから雲雀が初めてと視線を合わす。燃えきった灰をゴミ箱に捨てて手に付いた灰をパンパンと叩いて払いながら雲雀は続ける。

「君同い年なんだろ?気持ち悪いからさん付けもなし」

「雲雀…くん?」

「くんもいらない」

「雲…雀」

「イタリアではファーストネームで呼ぶんじゃないの、

「え、じゃあ、きょ、恭弥?」

「何」

恐る恐るが雲雀…いや恭弥を呼ぶとじろりと視線を寄越した。
何でもありません、と首を振って敬語禁止、と返される。

「ごめんなさい、どうも慣れなくて」

「…まあいいよ。とりあえず屋敷の掃除してくれる」

「恭弥が帰るまでにやっておきました」

「敬語、」

「あ。」

「はあ。じゃあ風呂掃除してきてよ。お風呂入りたい」

「もう準備出来て…る!」

たどたどしくは敬語を無理矢理直す。雲雀はそんなの様子に少し口角を上げた。
尤もがそれに気付く事はなかったけれど。
クローゼットを開けながら雲雀は言った。

「じゃあお風呂入ってくるから夕飯の準備しといてね」

「は…うん!」

はい、と答えそうになるのを必死に留めてはパタパタとキッチンに向かう。
そんな愛らしいの様子に雲雀はもう一度笑みを零すと部屋を出た。