「わあ〜雲雀!猫だよ猫!可愛い!」

「ちょっと、転ばないでよ」

とととっと駆けて行った彼女を一歩後ろから見守る。相変わらず危なっかしいな。



「黒猫だ!しかも子猫!ノラかな?」

「首輪してるよ。飼い猫なんじゃないの」

「なんだあ…ちょっと残念」

ノラだったら家で飼おうと思ったのに!と言いながらは猫をぎゅうううっとそれはもう音がしそうなほど抱き締めた。(あ、僕今猫に殺意が湧いたよ)



「ん?」

しゃがんでいるは猫を抱き締めたまま後ろの僕を振り返った。(何か猫も満更じゃ無さそうに見えるんだけど。何この猫オスなんじゃないの)

「猫僕にも抱き締めさせてよ」

しゃがみながらそう言うとは一瞬キョトンとしてその後花が咲いたように笑った。

「はい!」

ずいっと今まで抱き締めていた猫を寄越す。にこにこして無邪気な顔で。
猫を受け取るとちょっと怯えてた(そんなに僕怖い?)
抱き締めてみると、のシャンプーの匂いがした。

「…(にこにこ)」

「…(…の匂い)」

「…(雲雀が猫抱き締めてるなんて美味しいショット!可愛いなあ)」

「…(の匂い…ぎゅうううっ)」

「…!!」

「(…本人をこうして抱き締められれば一番いいのに)」

僕が無意識に猫を抱き締める手に力を入れてしまったらしくて猫が苦しいらしく鳴いた。
ちょっと力を緩めたと同時に、の匂いがさっきよりも強く、そして近くにあって、僕の視界は塞がれた。

…?」

「あっ…!ご、ごめん雲雀!」

名前を呼べばは背中に回していた腕を慌てて退かした。(あと五秒位待てばよかったかな)

「その、何だか雲雀が小さく見えて…」

「僕が…?何言ってるの」

「ご、ごめんってば雲雀…」

「まあいいよ」

わざと大袈裟に溜め息をついて言えばはほっと息を吐いた。

「但し」

「え?」

「お詫びは体でしなよ」

「!?ちょっ…ひばっ」

が僕の名前を呼ぶ前に腕を取り、自分の方に引く。そのままぎゅっと抱き締めるとの肩がビクリと跳ねた。

「ひば…」

「黙れ」

「…」

「…(そこで本当に黙るの)」

「…」

「…」

続く沈黙。僕ら夕方の道端で何やってるんだろうね。

「嫌なら、逃げなよ

「…」

「僕のこと突き飛ばして引き剥がして逃げなよ。別に怒らないから」

「…や…いから」

「?」

「…嫌じゃない、から…離れない、よ」

小さな小さな声でが呟いて抱き締められた体制のまま固まっていた腕を僕の背中に回した。
ああもう、何て子だ。

「嫌だって言ってももう離してやらないよ」

「離さなくて、いい…」

掻き消えそうなほどの声でがそう言うから僕は手加減できずにを抱き締める事になった。