白石くんがお兄ちゃんで羨ましいわー、自慢のお兄ちゃんでええなあ、そんなセリフをもう何度聞いただろう。
確かにお兄ちゃんである白石蔵ノ介は眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群の完璧な人間だ。その裏にあるであろう努力は私たち家族や周囲のごく身近な人間でしか知り得ることがない。
四天宝寺で彼を好きにならない人などいないと豪語されるほど、兄は学校中の注目を一手に引き受けている。
そんな兄を誇りに思わないわけがない。だけどいつだろう、周囲の人からの言葉に素直に頷けなくなったのは。
兄が完璧過ぎると妹にも優秀さを求められる。
それはとても窮屈で息苦しく、完璧過ぎる兄を恨んだこともあった。
それと同時に酷く焦がれていた。
類い希なる才能を始めとする、兄のすべてに。
もし血の繋がった兄妹でなければ、私もきっと彼を好きになっていただろう。
何も心配することなく兄を好きになれる周囲の人たちを羨ましく思ったが、その反面憧れ恋焦がれるだけの彼女たちに優越感を抱いていた。
兄に彼女がいない今、一番大事にされているのは、一番身近にいるのは私だと。
そう自負することが出来るほど私は兄に大事にされていたのだ。
だから周囲の人は私に媚び諂う。貼り付けた笑顔の裏に見え隠れする下心に反吐が出そうだった。
将を射んとすれば先ず馬から
気のいいふりして私に挨拶する彼女たちを見る度そんな言葉が頭をよぎる。
でも、そんな日々はいつまで続くんだろう。
私の今の居場所はその内そんな女の子の内の誰かに取られてしまうんだろう。
いつか一番身近な女の子は私ではなくなり、一番大事にされる女の子も私ではなくなるのだ。
それがいつなのか今の私にはまだ検討もつかないけれど、それがそう遠くない未来であることは兄が15、私が14と言う年齢が教えてくれていた。
もし兄と私が兄妹でなかったら、私は彼を好きになっていただろう。
でももし兄と私が兄妹でなかったら、兄は私を見てくれたのだろうか。
何もかも平凡と言うところから抜け出せないこんな私を。
優しく撫でたり抱きしめたり、名前を呼んでくれたりしたのだろうか。
結局のところ私たちは兄妹以外には成り得ないのだろう。
どんなに好きでも兄は兄で、兄以上に見ることは出来ないのだ。

「と言うわけなんや、わかった?」
「そんなブラコン宣言聞かされて俺に一体何の得があるねん」
「ないと思う」
「せやろな。そんな話聞かされて俺はどうしていいかわからへん」
「そもそも財前が部長のこと好きなん?とか聞くからやん」
「誰もそんな長ったらしく語れなん言うとらへんわアホ」
「アホってなんやねん」
「そのまんまやろ、まあ恋愛感情的な意味で好きやないってのはわかったわ」
「わかればええねん」
「ただえらいブラコンやけどな」
「ブラコンの何が悪いねん」
「悪ないけど軽く引くわ」
「財前が引こうがどうでもええわー」
「めっちゃ失礼や。せやけど」
「ん?」
「ちゅーことは今好きな奴おらへんねや」
「いっ今も何も昔からお兄ちゃん一筋やもん!」
「うわ引くわ」
「せやからどうでもええって。でもこんなん話したん財前くらいやで。女の子にはいえへんし」
「…なんや、まだ付け入る隙ありそうやな」
「ん?」
「なんでもあらへん、こっちの話や」
「変な財前やなー」
「まあ部長ばっか見んと、自分見てくれる奴に気付くことやな」
「そんなん居らへんわ」
「(あーアカン、こいつめっちゃ鈍い)」










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