古典は嫌いや。活用とか意味分からへん。
やる意味すら分からへん。
やってこんなん、生きてく上で必要ないやろ。絶対使わへんやん。
その点英語はこれからの社会に絶対必要になってくんねん。古典とは大違いやわ。

って古典の授業中、教師に言ったったら激怒されて課題出された。
部活もないんやし今日中に提出せえ、と一言余計な言葉も添えられて。
アホか。プリント10枚も終わるかっちゅーねん。
古典なんや嫌いや。今日で更に嫌いんなったわ。

「財前くん?」
、」

シャーペンをほおって椅子に体重をかけてぐらぐら揺らしていたら教室の戸が開いた。
様子見に来た先公やないやろなと姿勢を慌てて正したら先公やのーてやった。

「何やっとんの?」
「古典の課題や」
「あー今日出されてたアレか。終わりそう?」
「全然や。こないなもん分からへんわ」
「私で良ければ教えようか」
「ほんま?ほな頼むで」

席について、が椅子だけ近くに寄せる。揺れた髪からシャンプーの匂いがした。

「ほな行くで」

は要領よく説明していく。教えるのに手慣れてるのか元々上手いのか、の教え方は丁寧でわかりやすかった。
伏せられた睫、さらりと頬を滑る髪、ほっそい指はプリントを指して、涼やかな声が耳の近くから聞こえる。
ぼんやりと見とれとったらがパッと顔を上げて視線がぶつかった。

「ちょお財前くん、聞いとるん?」
「ん、ああ聞いとるで」
「ほんま?今ボーっとしてたやん」
「してへんしてへん」
「何考えとったん」
「手が」
「え?」
「手が冷たくてかなわんねん。動かしづらいわ」

とっさに出た言い訳は嘘やない。
手が冷たいのも、動かしづらいのもほんまのことやった。
に見とれとったって言う理由の方が多いのは言わへんけどな。

「ほんまや、めっちゃ冷たいやん」

急に手がじんわり温かくなったから変やなと思って見たらの白い手がそっと被さっとった。
うち体温高いねん、なんて照れくさそうに笑っとる。不意打ちや。

「ほんまにめっちゃ温かいな」
「せやろ?夏も冬も温かいから人間カイロ言われてんねん」
「せやったらこっちもあっためてぇな」

繋がれていない左手を差し出すと遠慮がちに繋いでくる。
両手からじんわりとの体温が伝わってきた。

「うちら何やってんねやろ」
「ほんまやわ」

恥ずかしげに笑うを至近距離で見る。こんなに近いんは初めてやろか。

「手ぇあったまった?」
「まだや」
「もう結構温かくない?」
「まだ冷たいで」
「ほんまに?」
「ほんま」
「せやったらあとちょっとな」
「おん」

もう手はあったまっとるけど、あともう少しだけこのままで。









放課後の教室は少し寒くて、きみの手はこんなにも温かい。
(まだ繋いでたい)