「そこにおるん…?」

部活が終わって、借りっぱなしやった視聴覚室の鍵を返しに職員室に来たら、暗い廊下を歩いている人影が見えた。
見慣れた後ろ姿に声を掛けると不安そうな顔で振り返る。

「財前、くん?」
「やっぱや。何しとん、もう帰ったんやなかったん?」

今日は俺が部活やったから、一緒に帰る約束はしてへん。
何でがここにいるんやろか、よく見れば鞄がえらい軽そうやからもしかして一旦帰ったんか?

「明日提出のプリント忘れてしもて、しょうがないから取りに来たんや」
「せやったんか、こんな遅くに」
「気付いたんがさっきやねん。もうちょい早よ来たかったんやけど…」
「なんで?暗いの嫌いなん?」
「やって…なんや怖ない?暗いし、なんや出てまいそうやん?」
「…ふはっ」
「ちょっ財前くんひどっ!」
「いや、可愛ええとこあるんやなと思っただけや」
「可愛っ…!」
「着いてったるよ、俺も。そしたら怖ないやろ?」
「ほんま?」
「おん」
「…おおきに。一人だと心細かってん」
「ふはっ」
「せやから笑わんといて!」

赤なってるの隣に並んで暗い廊下を歩く。
光があった職員室の近くと違って教室の前辺りはほんまに暗い。
外の明かりでかろうじて周りが見えるくらいやった。
ぎゅっと制服の裾を握ってるの姿も見づらい。

、制服皺なんで」
「せ、せやかてなんや落ち着かんし…」
「掴むんやったらこっちにし」
「あ…」
「怖なったら強く握ってもええから」

が強く握ってた手を取って、自分の手のひらで握り込んでまう。
は戸惑ったように一度躊躇って、そしてそっと弱い力で握り返してきた。
手をつないだ途端にそばにいるって実感したのか、の手のひらから緊張が解けていく気がした。

「なんや…人の体温って安心するんやな」

ぼそりと呟いて、

「手ぇつないでくれてありがとお」

小さく笑ってお礼を言うに、理由をつけて触れたいだけやったって下心は知られなければええと思った。









怖がるきみの手を握った、俺の下心をきみは知らない。

(やっぱちっちゃい手ぇやな