一緒に帰ったあの日から、財前くんが部活あらへん日はなんとなく一緒に帰るようになった。
お金があればこの間の甘味処に寄るし、なければ公園で缶ジュース飲んだりして放課後の短い時間を一緒に過ごす。
他愛ない会話がポツポツと続いたり、二人してぼーっと空を見上げたりした時もあったっけ。
なんとなく、なんとなくやけど財前くんも私のことを好きなんやないか、なんて考えとる自分がいる。
自惚れやったらえらい恥ずかしいけどそう勘違いさせる要素が山ほどあった。

「財前くん、お待たせ」
「ん、帰るで」

教室から一緒に帰るのはなんや恥ずかしくて、学校から近い公園で待ち合わせて帰る。
どこで待っとるかも最近はわかるようになった。

「今日どないする?」
「お小遣いもうあんまりあらへんから、缶ジュースがええんやけど」
「りょーかい、何にする?」
「アイスミルクティーがええな」
「ほな買ってくるわ」

ジュースにするとき買いに行くのは財前くんの役目、甘味処にしたとき注文するんは私の役目。
なんとなく決まってきた。

「ん、」
「おおきに。ほな120円」
「ええよ」
「え?」
「今日は奢るわ、金ないんやろ?」
「ないけど…悪いわそんなん」
「じゃあ今度お金ある時にがジュース奢ってや」
「おん、ほなそれでな」
「おん」

財前くんが隣に腰掛けてコーラをあおる。
私もミルクティーを飲んだ。
空は昼の青空から夕焼けになるところやった。ベンチに座ってぼーっと空を見る。
ベンチに置いてた手にひやりと何かが触れた。

「な…」
、手暖かいんやな」

触れてたのはジュースでもなくて、驚いたことに財前くんの手ぇやった。ひやりとした冷たい手がだんだん私の手を覆ってくる。
俺冷え症なんや、と財前くんの声が聞こえるけど冷静に聞いていられへんかった。
心臓が破裂しそうなくらいドキドキして、包まれた手のひらから伝わらないか心配になるほどやったから。

、顔真っ赤やな」

俯いてる私の顔を覗き込むようにしながら財前くんが言うた。

「ざ、ざざざ財前くんが、手ぇなんか握るからやろ…」
「噛み過ぎや」
「なんなん自分、なんでそんな余裕なん」
「アホ、俺かて余裕なんかあらへんわ」

こつんと頭を小突かれて顔を上げると財前くんはもう横を向いとったけど、髪の間から覗く耳が赤なってるんが見て取れた。

「財前くん、耳赤ない?」
「うるさいわ、見んなや」
「財前くんも照れとるん?」
「…当たり前やろ」
「財前くんも私と同じなんやな」

思わず俯きながら笑たら横から笑うなや、どアホとぼそぼそ聞こえた。

「ほなそろそろ帰ろか」

財前くんがぐいっとコーラを飲み干したから私も慌ててミルクティーを飲む。
ずっと握ってたせいでミルクティーは温くなってて、緊張してたのか酷く喉が渇いていてごくごくと入っていった。

財前くんはゴミ箱に缶を投げて、私は缶を捨てにゴミ箱まで歩いていった。
触れていた手が離れたら安心したと同時に急にひやっとして、やけに寂しく感じた。

「行くで」

そんなことを思っていたら財前くんが後ろからさっきと同じ手を取って、優しく握った。

「ざ、財前くん?手は…」
「このままじゃあかん?いややったらええけど」
「いやや、ない、よ…」
「ほな、このままでな」

二人とも何も言わないでただ歩いとった。
つないだ手のひらから緊張と高揚が伝わっていた。









手をつないだ。きみに一歩近付けた気がした。

(手汗っ!手汗かくっ!)