二人の間に流れるのは水の音だけやった。
が俺が食べたぜんざいの器を洗ってる音。
俺は壁に凭れて洗い物をするの姿をただぼーっと眺めとった。
なんや…えぇなぁ。新婚みたいや。
とボケたようなことを考える。
「財前くん、先帰ってええよ?家庭科室施錠して職員室に鍵返しに行かなあかんし」
「ええよ、待っとる」
「せやけど」
「ぜんざいの礼になんか奢るわ」
「ええよそんなん!部活の余りもんなんやし」
「ほんま美味かったし、待たせたから詫びも兼ねて。迷惑やったらあれやけど」
「迷惑なんかやないよ!」
「せやったら決まりな」
「おん」
でも悪いなぁとか呟くを後目に、俺は内心浮かれとった。
理由はどうあれと下校やし、放課後デートみたいなもんや。
職員室に鍵を返しに行くの三歩後ろくらいを歩きながらどこに行こうか考えとった。
「財前くんお待たせ!」
「全然待ってへん。せや、なんか食いたいもんある?」
「あ、えっとなんや缶ジュースとかでええで」
「あかん」
「ええ、なんでやねん」
「それや礼にならへんやろ。昨日小遣い入って小金持ちやし、チャレンジパフェだろうがなんだろうが奢ったるで」
「チャレンジパフェなん食えへんわ!ん〜…せやなあ」
「ないんやったらチャレンジパフェやで」
「それは勘弁してや。せやったら家の近くにある甘味処行かへん?」
「甘味処?」
「うん、私かき氷食べたいねん」
「ええよ、ほな案内してや」
「おん」
校門を出ての隣を歩く。
んちは俺んちと反対方向やとか、他愛もない会話を交わしながら甘味処までの道を歩いた。
「あ、着いたで!ここやここ」
そう言いながらは戸を開けて中に入る。
こじゃれた店構えで女子が好きそうな感じやった。
「財前くん何にする?」
「ぜんざいセット」
「ほんまぜんざい好きやねぇ」
「は何にするんや」
「宇治抹茶金時」
「自分渋いなぁ」
「ええねん、ここのあんこほんまに美味いんやから」
店員にちゃちゃっと注文して、しばらく待つとかき氷とぜんざいセットが運ばれてくる。
ぜんざいセットには抹茶がついとった。
「ん…美味い」
「せやろ?ここのはどれもこれも美味いねん」
「のんも美味そうやなぁ」
「あ、食べてみる?はい、」
あーんとがスプーンで掬って差し出した。
ふ、と二人固まる。
間接キスやんけ!
「あ、あっ!ごめんごめん嫌やんなぁ!?スプーン新しいのもら」
「ええよ」
「え…」
ぱくり。
の差し出したスプーンをくわえる。甘くて冷たくて美味かった。
「ざ、財前くん」
「はは、ほんま美味いわ」
「せ、せやろ?」
動揺して赤なってるが可愛ええ。ぎこちなく食べる姿もいじらしい。
ああ俺、アホみたいに惚れてるんやなぁなんて実感した。
「ごちそーさんでした」
「俺こそいい店教えてもらえて良かったわ」
「せやろ、ここぜんざい以外もめっちゃ美味いから」
「せやけど男一人で入りづらいよなぁ」
「おん、そうかもなぁ」
「せやから」
「ん?」
「…また一緒にこぉへん?」
「……おん、また一緒にこようや」
「………暗いから送ってくで」
赤なってる耳が見えへんとええな。
照れ隠しで素っ気なく言うた送ってくの言葉の意味に今はまだ気づかへんでほしい。
一歩を踏み出す勇気
(もう少し一緒に居りたい)