「…なんや財前、今日は落ち着かへんなぁ」
「光さっきからうろうろしてるでー」
「なんかあるったいね」

落ち着けるわけなんかない。
ぜんざいが、のぜんざいが今まさに作られてる(多分)んやで?
はよ来んかなぁ
あわよくば一緒に帰ったりとか出来ひんやろか。
あーでもあんまり待たせるのも悪いわなぁ…
どないしょ。

「ざーいーぜん」
「うわっなんですか謙也さん、いきなり後ろから出てこんといてくださいキモいっすわ」
「なんやと!?」
「こらこら謙也、いちいちキレるんやないわ。財前、どないしてん。今日なんやそわそわしてへん?」
「なんでもないっすわ部長」
「まぁメニューはちゃんとこなしてるし普段より気合い入ってる気ぃもするし、プライベートなことなら別にええねんけどな?ただあんまり気が漫ろやと怪我すんで」
「はぁ、気ぃつけますわ」
「そうしいや。ほな謙也と財前はコートでラリー練習やで」
「はい」
「財前行くで」
「いきなり仕切らんといてくれます?先輩ほんまうざいっすわ」
「なんやとー!?」
「あーウルサい」

ウルサい先輩のツッコミを流しつつコートに入ろうとしたとこで視界の端に走ってくる人影が見えた。
思わず顔をそっちに向けると、案の定やった。

「財前くん!」
、部活もう終わったん?」
「おん、それで持ってきたんやけど」
「あー…俺今からラリー練習やねん」
「あ、そうなん?せやったら待っとくわ」
「悪いな」
「気にせんといて、ほな練習気張り」
「おん」

は木陰にあるベンチに座ってコートに入ってく俺らに手を振る。軽く振り返して練習に入る。
ニヤニヤしてる謙也さんがめっちゃうっとい。

「財前、お前彼女おったんやな」
「ちゃいます」
「ちゃうん?せやったら好きな子か」
「いたら悪いんですか」
「!財前があっさり認めるとは思わへんかったわ…」
「否定した方がめんどいやろ」
会話の最中もラリーは続いとるし、部長も注意せぇへんからええんやろ。
が見とると思うと気合いが入るのか、いつもより汗をかいた。

「お疲れ様でしたー」

結局あのまま練習は続き、最後までを待たせてまった。
急いで着替えてのとこへ行けば、さして気にした様子もなくお疲れさんと言って笑った。

「待たせてすまんかったな」
「気にせんといて、ぜんざいもまだ冷え冷えやし」
「ほんまや」

が横にずれてベンチを開ける。
開いたスペースに腰掛けてが差し出すぜんざいを受け取って一口食べると冷えた白玉が疲れた体に心地よかった。

「美味いわ」
「そら良かったわ、残さず食べてな」
「当たり前やわ」

いつものぜんざいより美味いのぜんざいをあっさりと食べ終えて、器を片すからとが立ち上がる。
俺も行くわ、と立つと乱暴に開いた部室のドアから金太郎が走って出て来た。

「毒手いややーっ!」
「待ちぃや金ちゃん」
「…!こっちや!」
「きゃっ!?」

の方に真っ直ぐ突っ込んで来た金太郎を避けさせようと気付けば俺はの手を引いて引き寄せとった。
髪からシャンプーの香りがして、近さを実感する。
初めて触れた手は驚くほど小さく細く、乱暴にしたら折れてまうんやないかと思った。
金太郎はベンチを蹴り上げて木の上に登ったようやった。

「…、平気か?」
「お、おん。大丈夫やで、びっくりしたわぁ」
「悪いな、うちの猿や」
「猿てなんなん…」

ふと顔を上げたと至近距離で目が合って、慌てて手を離した。

「ごめん」
「いややわ、なんで謝るん?」
「なんとなくや」
「なんとなくかいな」

片付けに行こうやとは背中を向けて校舎に向かう。
髪から覗く耳が赤くて、もしかしても俺のこと好きなんやないかとふと思ってしもた。










慌てて離した手
(めっちゃ柔らかかった…)