「あ、財前くんや」
「あ、早いやん」

朝、誰もいいひん教室は好き。
普段の賑やかな感じと違って静かで落ち着く。
だから最近は早く行くようにした。暇やったら図書室で本でも借りてきたらええし。

と思って教室の戸を開けたら、財前くんがちょうど荷物を下ろしてるとこやった。
おっきなテニスバック、財前くんはテニス部や。

「なんなん、自分早いやん」
「俺は朝練や」
「せやったな、テニス部大変やなぁ」
「もう慣れたわ、こそどないしてん」
「朝はよ行くん好きなんよ、静かやん?」
「せやなぁ、このクラスほんまウルサいからな」
「せやせや」

そんな世間話をしながら財前くんの隣に腰を下ろす。
席替えで隣になって以来、財前くんとはよお話すようになった。
最初こそ冷たい印象があったんやけど、財前くんは思っとったより優しいし、たまにでる毒舌にも今はもう慣れてしもた。

「せや、古典の訳やってきとる?」
「おん、やっとるで」
「見してくれへん?今日古典当たるんや」
「財前くんやってへんの?」
「古典嫌いなんや」
「なら余計自分でやらな」
「せやかて古典わけわからんやん、活用とかほんま意味分からん。うっといわぁ」
「んーせやけどなぁ」
「ほんま頼むわ」
「ほな明日の英語の訳写させてくれるならええよ」
も英語得意やろ」
「見せるだけやったら不公平やろ」
「ほな明日は真面目にやってくるわ」
「普段真面目にやっとらんのかい」
「やって英語得意やもん。あんなんその場で訳せるわ」
「そらすごいわぁ。ほな、古典のノート」
「おおきに」

財前くんは私からノートを受け取るとサラサラと自分のノートに写し始める。
男の子にしては綺麗な字やなぁなんて思いながら肩肘付いてその単調な作業眺める。

「財前くんて字綺麗なんやなぁ」
「は?何言うてんのアホちゃうか、つーか見んなや」
「男の子にしたら綺麗やで、読みやすいわ」
「自分俺の話聞いとる?」
「聞いてへん。これなら明日のノートも期待出来るわ」
「品定めかいな、アホや」

ノートを写しながら小さく笑う。
テニス部の先輩といるときみたいな財前くんの柔らかい笑顔も最近見られるようになった。
気付いたらこの席はどこよりも落ち着く。

も字綺麗やん」
「ほんま?」
「おん。見やすいで、こら今後もこのノートにお世話にならなあかんな」
「何言うてんの、毎回写す気かいな」
「いっそノートの名前のとこに並べて俺の名前書いたるわ」
「共用にすな、アホちゃうか」

いつからかこんな軽口も叩けるようになった。
昔はこんなん言うたら殴られるんやないかとか思っとった。
ピアスバリバリつけてて、無口で口開けば毒舌。
言わば不良みたいなイメージやったから。

なのに、気付けばこんなにも、










隣同士がいちばん自然
(居心地がいい不思議)