「あっ金ちゃんおはよおさん」
「蔵ー!先月の部費がな…」
「謙也あんた靴酷使し過ぎや…1ヶ月でボロボロやないか…」
「銀さんあれ運ぶの手伝ってくれへん?」
「ユウジ、昨日の吉本新喜劇見たー?」
「小春ちゃん!今日もかわええなー」

先輩は色んな人を名前で呼ぶ。
そら先輩は三年やし、マネージャーやし、みんなと仲ええんわわかっとる。喜ばしいことや。
せやけど、

先輩」

せやけど、な?

「なん?財前」

何で俺名字やねん。普通の後輩ならわかるけど、俺一応先輩の彼氏なんやぞ?

「どしたん?」

何も言わへん俺を不思議に思ったのか先輩が近寄ってくる。
俺よりちっさい先輩は俺の前まで来て顔を見上げた。

「ざーいぜーんどないしてーん」

目の前で手をひらひらと翳す。気は確かやっちゅーねん。

「…先輩、俺の名前知っとる?」
「おん、財前やろ?」
「ちゃう、下の名前や」
「知っとるよ」
「(言わへんのかい)」
「それがどないしてん」

あくまで下の名前を言う気の無さそうな先輩。そんな態度取るならこっちにも考えがあるわ。

「先輩、星は夜どうなる?」
「ん?輝くなあ」
「(ちゃうちゃう)…源氏物語の主人公の名前は?」
「源氏の君様やろ?」
「(大事なところ抜けてるやーん)ほな蛍のお尻は」
「ピカピカなんなぁ!」

どの問いにも先輩は一歩外した回答を返す。もう嫌になるわこの先輩。もしかしてわざとなん?

「…先輩、わかっててわざとやっとるん?」
「ん、なにが?」

わかってへんのか、隠しとんのかわかれへん。
素っ頓狂な顔して先輩は俺の顔を見上げてくる。
ああ、もう、ままや!

「先輩、光って言うて」
「え、」
「光って言うてや」
「いやいやいやいや財前?」
「光や」
「財前くんちょお落ち着こうや」
「光や言うてるやろ。なあ俺先輩の彼氏やんなあ?なんで名前で呼んでくれへんの」
「ざいぜ、」
「他の先輩らのことは名前で呼ぶのになんで俺は呼んでくれへんねん。先輩俺のこと好きやないん?」
「いやいやいやちゃうねん、嫌いとかとちゃうねん」
「せやったらなんで、」
「ひ、」
「あん?」
「ひか、ひか」
「…」
「ひか…る…」

ようやっと俺の名前を呼んでくれた先輩は、途端に茹でタコみたいに顔が真っ赤に染まった。
呆気に取られて眺めていると、きゅっと俺のジャージを握って俯いた。

「せ、せやから言いたなかったんや!今私トマトみたいになってるやろ?」
「いや、先輩?」
「財前だけやねん!財前だけ、名前で呼ぼうとするとこないに情けないことになってまうねん…」

徐々に聞こえなくなる声、髪から覗く耳は赤く赤くなってて。
なんなんこの人、めっちゃかわええやんか。どうにかなってまいそうや。

先輩、」
「ん」
「…めっちゃかわええ」

少し顔を上げた先輩の耳元で囁けば、慌てて離れようとするから、腰に手を回してそれを阻止する。
少し引き寄せる感じで腕に力を入れて、体を寄せて耳元でなおも囁き続けた。

「ほんまめちゃくちゃかわええ。どうにかなってまいそうや」
「あ、あかん!それ以上言わんで!」
「なんでや」
「…私がどうにかなってまいそうや」

………あー。
もうこの人俺を殺したいんちゃう?
なんでこうかわええことばかりポンポン言ってくんねん。
アカン、我慢効かへん。

「な、先輩抱き締めてええ?」
「いやだめ、っちょ」

もう抱き締めとるやん!って抗議は聞こえないフリをして先輩をぎゅーっと腕の中に閉じ込めた。

「財前、くるし」
先輩、キスしたい」
「!」
「あかん?」

ちょっと体を離してのぞき込むと先輩はまた深く俯く。

「先輩、」
「あかんあかん!」
「なんで」
「やって…こんな赤なってる顔見られたないもん…」

………あー。
やから!この人は俺をどうしたいねん!
ほんまに殺されそうや。
先輩はそ、それにここ部室やし!と取って付けたように別の理由を乗せる。
いや、それはどうでもええねん。(多分ほんまはよくないけど)
腰に回してた手を顎にかけると先輩は顔をあげまいと顎に力を入れて抵抗する。
いやもう、そういうのええねん。(必死な姿はかわええけど)
もう片方の手で背中をつーっとなぞるとふぁっと言って顎の力が抜けた。
いやいやなんやねん今の声ちょっとエロいやんけ。
その隙に顎を上げてちゅっと唇を奪う。
泣きそうな顔の先輩と目があって、嗜虐心が擽られて、今度は深く口付けた。

「ふっ」
「先輩めっちゃかわええ」
「んやぁっざいぜ、」
「光って呼んでぇや」
「ひか、るっ」
先輩今めっちゃ顔エロい」
「な、んっ」

顎にかけていた手をキスの合間に滑らせて後頭部に回す。
逃げられないように深くキスを続けた。

「は、あっ」

しばらく楽しんで唇を離すと先輩は苦しそうに肩で息をする。
キスする度に思うけどキスした後の先輩の顔はエロい。普段が無邪気なあどけない感じだからギャップが凄くて、それを知ってるのが俺だけやと思うと優越感に浸れる。
そうして俺は彼女とのキスに嵌っていくばかりだ。

「…名前、呼べるように練習しような、

耳元で囁いて離れたらまた真っ赤な顔した先輩と目があった。
呼び捨て禁止!と暴れる君を一体誰が手放せようか。(いや、手放せない)










君に、ひかる。










(ていうか部活初めてええかー?)
(ギャーオサムちゃん!見てたん!?)
(覗き見とかないっすわあ)
(いや部室のど真ん中でやっとったら覗き見も何もないやろ)
(それもそうやんなあ)
(オサムちゃんの変態!痴漢!セクハラ!)
(部員みんな部室に入れへんって泣きついてきたから代表で来たったんに酷い言われようやなハッハッハ)
(わろとるやーん)
(謙也なんか涙目でトイレ行ったで、あ、ユウジもな)
(先輩ら…)
(青春は見えないとこでしいやー)
(はーい)
(おお財前いい返事やな、1コケシ)
(いらへん)
(返事早すぎやろ…凹むわ…)