私が望むものはいつだって貴方のためのもので私のためのものなんて何もなかった。
いつだって貴方の幸せを祈って、胃が痛くても体が千切れそうでも貴方だけ思って。
その行為に何の意味があるんだろう。
もしかして私がこれまで耐えてきた全ての日々は無駄だったんじゃないか。そう思ったのは悲しそうに歪んだ貴方の顔を見たからで。
でも結局私の全ては貴方中心に回っているみたい。
温かくて優しすぎるその指が顔に触れただけでほら、もう泣きそう。
言葉は乱暴なくせにどうしてこうも優しいの。
にじんでゆく視界。貴方は声を殺して笑う。
「何て顔してんだよ。ひでぇツラだな」
貴方に言われたくないわ。今にも泣きそうな顔してるくせに。
「涙、溢れてるぜ。傷に染みねぇのかよ」
そういえばさっきからほっぺたが痛いな。何で人間の涙って塩分含んでるの?
「なあ」
その武骨な癖に洗練された指で輪郭を辿らないで。触れられた箇所からどろどろに溶けてしまうんじゃないかしら。そう思うほど彼は神聖な存在に思えた。私は酷く醜い。
「もっと俺を頼れよ、…バーカ」
まるで儀式めいて額を額に当てる。いつものように笑えてないって、気付いてる?
何で全身が傷付きボロボロな私より貴方が痛そうなのかしら。
「ごめんなさい…景吾」
でもそんなことはもうどうでも良かった。身体中のあちこちについた傷に口付ける貴方。全てを知っていた貴方。
もうどうでもいい。
結局の所私の世界は貴方を中心に回っている。
私は何も望んでいなかった。貴方以外の、何も。
(いじめられてボロボロの私を教室で待っていてくれた、それだけで私は嬉しいから)