男テニと女テニの合同合宿も終わる。
最終日は花火で締め括る事になっていて近場の海までぞろぞろと皆で歩いてきた。
女テニ部員はこの夏最後のチャンス!
とか何とか言って胸元の開いたワンピースとか、ミニスカとか、各々の勝負服に身を包んでいた。
ぶっちゃけ普段汗だくでボールを追い掛けてる所みられてるんだし今更着飾った所でロマンスも何も起こんないでしょ。
妙に冷めている私はそんなことを思ってみる。
そんなわけで私はあまり服装に気を使わないで楽な格好できた。
濃紺のホットパンツにストラップが二本になっているキャミ。楽な格好がやっぱり1番だよね。
女子部の部長である私は海岸につくと周りを仕切らねばならなかった。しかも、一人で。
副部長は既に男テニ部員と盛り上がっていて何故か男子部部長の跡部はいない。
既に盛り上がっている周囲に溜め息を噛み殺してロウソクに火をつけた。

各々気になる相手とよろしくやっているようだ。
元々そんなつもりもない私は花火を楽しむ皆を尻目に少し離れた岩に腰掛けた。

「何だ、お前一人で何やってんだよ」

ざっ…と砂を蹴る音がして後ろから声が聞こえた。
少し汗をかいたのか前髪が張り付いている。斜め後ろを振り返って彼の名を呼んだ。

「跡部」

「一人寂しく何やってんだよ」

どかっと音を立てて跡部が足元に座る。
少しだけ息を乱している彼にハンカチを渡せば素直に受け取り汗をふいていた。

「ちょっとぼーっとしてた。跡部こそ今まで何してたのよ」

「アーン?走り込みだ」

「まあそんなことだろうと思ったけどね」

まあいいわ、と言って星空を見上げた。
勝利に対して貪欲な跡部は単純に格好いいと思うし尊敬に値する。
普段は部長の仕事を絶対さぼらない跡部だし、多分花火なんて遊び行事馬鹿らしいとでも思ったんだろう。

「大体花火なんてする必要あんのかよ」

「(ほらやっぱり)」

「お前はそうは思わねぇのか?

ゆっくりと視線を跡部に戻すと此方を見ている跡部と目があった。

「まあ…仕方ないんじゃない?息抜きも必要かもよ」

苦笑い気味にそう言った。
跡部は動かない、目をそらさない、瞬きもしない。

「あ、跡部?私何か変なこと、」

言った?と続くはずの言葉は跡部の唇に飲み込まれた。
急に腕を引かれバランスを崩して一瞬触れた唇。
離れたと思ったら跡部はすぐに立ち上がって皆の方に歩き出した。

「ちょっ…跡部!?」

跡部は振り返らない。
突然の事に驚いた私はずるずると岩から落ちた。
座り込んで、まだ温もりの残る唇に触れる。鮮明に蘇る感触が恥ずかしくて蹲った。

「オイ」

高圧的にかけられる言葉に私は顔をあげる。
花火を持った跡部は私を強引に立たせて一本持たせた。
ロウソクに自分の花火を近付けて火をつける。吹き出した色とりどりの火花を見て取ると私の花火に移した。
途端に私の花火からも同じ色の火花が吹き出す。

「お前がいけねぇんだからな。」

跡部は唐突に口を開いた。意図がわからなくて跡部の方を見ると少しだけバツが悪そうに跡部が続けた。

「お前が…が一人で離れてるからいけねぇ」

「…何が?」

「ましてそんな格好見せられて、我慢がきくわけねぇだろ」

そこまで言って跡部は話を区切る。やけにゆっくりとこちらに視線を向けて再び口を開いた。

「こんなにお前のこと好きなのに…我慢出来るほど大人じゃねぇんだよ、俺は」

痛いほど見つめられて心臓がどきりと跳ねる。
その蒼い瞳に射抜かれてどうにかなってしまいそうだ。
やけに速くなる鼓動を少しでも抑えようと無意識に胸元に手をやった。

「俺以外のやつに、あんま肌見せてんじゃねーよ、バーカ」

もったいねぇだろ、と言って跡部の骨張った手が私の顎を捕える。
一歩近付いた跡部が上から私を見下ろす。徐々に近付いてくる顔。
重力に逆らわぬ柔らかな前髪が私の額に触れるくらいに近くなった時、跡部が口を開いた。

「嫌なら拒め」

「…」

「ここで拒まなかったらもうどうなっても知らないぜ」

そういう跡部はやけに妖艶で魅惑的に映る。
拒む、など考えられないほどにそれは私を支配していく。
熱の籠った瞳がやがて伏せられて熱すぎる唇が自分のそれに触れた。
手持ち花火は既に黒く変色し、あの鮮やかな色の欠片はどこにも見られない。
もう意味のないそれを砂浜に放ってお互いに没頭した。

花火、なんて所詮口実。

求めるのはお互いの熱、それだけでしょう?

ありきたりな愛の言葉など囁かなくても、もうそれだけで十分だから。









(出来ることなら俺色に)