許されない嘘をついてしまった30秒後。
私はずるずるとフェンスに背を着けてしゃがみこんだ。

「私今何言った…?」

もう戻れない。





泣きたくなるような夢を重ねて泣きたくなるような恋を重ねた





!かえろーぜ!」

「あ、うん…」

その一言に教室中がざわめいた。
なんてったってお相手はあの立海大付属中テニス部二年生エースの切原赤也くんなのだから。
彼は人気がある。
だからこそ何で私なんかが選ばれたんだろう。
とか言ってるよりもまず、私には言わなきゃいけないことがあるんだ。
「ごめんなさい」って。
さっき昼休みに呼び出されて告白された。
その勢いに負けて私は頷いてしまったのだ。
本当は彼のことを意識したことなんてなかったのに。

、どした?」

「あ、ううん何でもない」

「そうか?何か青ざめてるけど」

「そそそそんなことないよ!」

「ならいーけど…」

腑に落ちないって顔をした切原くんから目を逸らす。
ダメだ、私この目に逆らえなさそう。
意を決して足を止め、そんな私に気付いた切原くんも足を止めて振り返る。

?」

「あ、あのね切原く「赤也」え?」

「赤也って呼んでよ。俺だってって呼んでるじゃん」

「あ、あのでも、」

「赤也」

「切原く」

「赤也!」

「あ、赤也、?」

「よし!」

やっぱり勢いに押されて赤也と呼んだ私に少し照れたようにはにかんで笑った彼を一瞬可愛いと思ったんだ。





帰るぜー」

「あ、待って赤也くん」

赤也くんはあれから毎日迎えを欠かさずに一週間たった。
一週間経つ内に彼が私をと呼ぶことにも慣れ、私も赤也くんと呼ぶことに慣れていた。
(ほんとは赤也って呼べって言われてるんだけどくん付けで我慢してもらってる)
だからこそ経ってしまった時間の分だけ私の罪は重たくなっていた。
日毎に足が重くなる。
言い出せない。

「じゃ、また明日な」

「あ、待って赤也くん!」

「ん?」

私をしっかり家まで送って帰ろうとする赤也くんをとっさに呼び止めてしまった。
振り返った赤也くんに私は俯いて口を開く。
出て来た言葉は思った以上に残酷に響いた。

「…私、赤也くんのこと好きじゃない」

「…は?」

「違う、好きじゃなかったの、一週間前は。なのに私、頷いて…」

「ああ、何だ。そのこと?」

「え?」

赤也くんのあっけらかんとした言葉に私は顔を上げた。
すると赤也くんは笑いながら私の頭をくしゃくしゃと混ぜた。

「一週間は俺のこと全然好きじゃなかったなんて知ってるよ。だからこそ好きにさせてやろうと思って告白したんだし」

「そ、そうなの?」

「うん。それに今は違うんだろ?」

「う、うん。今は…」

「今は?」

「今は、赤也くんのこと…」

「なーに。ちゃんと言って。そしたら俺許してあげるよ」

「私、今は…赤也、が好きだよ」

「!」

意を決して名前を呼んで、自分に出来る精一杯で伝えたら赤也くんはぎゅっと門を挟んで抱き締めてくれた。

「俺もすげー好き」

そして私たちは初めてのキスをした。










(なんちゃってシリアス。赤也が好きだ…!)