ざざあ…と波が寄せては帰っていく。
頭上には望月。
明るく、優しく、砂浜を歩く二人を照らす。

月の光に照らされた彼女は普段の数倍美しく、ヒノエは目を細めてを見た。
眩しくて、本当に天女の様だとヒノエは思った。

そっと、華奢な肩に腕を回して引き寄せた。急なヒノエの行動には驚いた様だった。

「ヒノエくん…?」

「ん?」

「どうしたの?いきなり」

「嫌だったかい?」

「嫌じゃないけど…びっくりした」

腕を払い除けるわけでもなく、はただ気になっただけのようだった。
そんなに、ヒノエはまた小さく期待する。
全てに決着が着いた後、自分の元に残ってくれるのではないか-と。

その決着が着く筈の決戦は明日だった。
夜、を探すがいなくて外に探しに出た。月明かりの下、一人で砂浜にいた望
美を見付け、ヒノエは声をかけた。

まだ大切な事を聞いていない。

ヒノエがを探していた理由、それはに聞きたい事があったからだった。

「ねぇ、姫君」

「なに?」

「戦いが終わったら、お前はどうする?」

突然のヒノエの問いにはえ…、と困惑した声を出して足を止めた。
ヒノエもそれに合わせて止まり、と向き合う。

「譲と元の世界に帰るのか?それともオレの花嫁になってくれるかい?」

「ヒノエくん、私、」

「帰るなよ」

何かを言おうとしたの言葉を遮ってぴしゃりと言いつけた。

「帰るなよ、。この世界で、オレの隣で暮らせよ」

「でも、」

「ここはもうお前の世界だ。明日お前が救う世界。居場所なら、ここにある」

佇むを、ヒノエは腕の中におさめた。
お前の居場所はここだ、と言いながら。

「お前の居場所はオレの腕の中だ。離しはしないよ」

「ヒノエくん…」

それは、優しい拘束だった。
腕を突っ張ればするりと抜け出ることも出来るだろう。
ヒノエの腕には力が入っていなかった。
それはおそらく、の返事を待っているからだ。

「…ヒノエくんの、側にいたいよ」

ぽつりとの呟いた言葉に、ヒノエは胸を掻きむしりたい程の衝動に駆られた。
愛しくて苦しい。
今ここにいる彼女を抱きすくめて離したくはない。
けど、それは出来ない。
の答えはあくまで希望だ。
希望は、決定じゃない。
その後に言葉が続くのかと思ったがが何も言わない所を見るとこれが現時点でのの答えだ。
ヒノエはする…と拘束していた腕を解き、の髪をくしゃりと混ぜた。

「答えを急かし過ぎたね、そろそろ帰ろうか」

「…うん」

きゅ、とがヒノエの着物の裾を引っ張る。ヒノエは苦笑いしながらその手を取って歩いた。

残る、とも決まってないが、帰る、とも決まってない。
少なからずはこの世界に残る事を迷っている。
あと一日。
その間にがこの世界に残ると決める決定打があれば、とヒノエは頭を活動させる。
それは絶望的にさえ見えた。
どんな言葉を囁けば、どれだけ言葉を尽くせば。
普段身近にいる女と毛色の違う彼女に今回ばかりはヒノエも戸惑う。
それでも諦める事など出来ない。
この胸をこんなにも熱くしたのは彼女だけなのだから。


側にいたい、けど帰るのか。


側にいたい、から残るのか。


その答えが分かるのは月が沈み夕陽がまた沈むころ。










どれだけ言葉を尽くせば伝わるのかな