「ねぇ姫君、遊びに行こうか」

「え?」






遊びに行こう






突然の申し出にが抵抗する前にヒノエは強引にの手をとって外に出た。

「遊びに行くって、ヒノエくん一体何処に?」

軽く引っ張られて前のめりになりながらが問うとヒノエは少し考えたようなそぶりをしてからを見て言った。

「特に考えてなかったな。でも姫君となら、何処へでも」

「何処へでもって…」

になら熊野を案内して回ったっていいぜ?沢山のいい景色をご覧に入れるよ」

の手を離さず、歩き続けながらヒノエは言った。

気付けば目の前はもう海岸で、夕陽が海へと還る所だった。

「わぁ…綺麗」

「だろ?こんなに美しい景色がこの熊野には沢山あるんだ。いつか全部見せてやりたいね」

「うん、見てみたいな」

笑ってが言えばヒノエは約束だよ?と手を更に強く握った。

「ねぇヒノエくん、本当に私となら何処へでも行く?」

「ああ、勿論。姫君の行きたい所へ何処へでも」

「今京に行きたいって言っても?」

「今からでも行くさ」

「鎌倉でも?」

「勿論」

「じゃあ…元の世界に帰りたいって言っても?」

そうが言った瞬間、少なからずヒノエの顔が曇った。

哀しそうな、苦しそうな表情をした。

でも、それは本当に一瞬で、すぐに表情を戻して応えた。

「いや…流石にそれは出来ないな。それは白龍の役目だからね」

下を向いて自嘲気味に笑うヒノエに、もうつ向いた。

「帰りたいのかい?」

「え?」

が顔をあげるとヒノエは眉根を寄せて少しやはり哀しそうな顔をしていた。

「元の世界に…帰りたい?」

そっと頬に触れられて、優しく問われて。ははいともいいえとも言えなかった。

帰りたくないと言えば嘘になる。でも此処にいたくない訳じゃない。

確かに戦は悲しいし、嫌だけれど、

守りたい人達がいる。

変えたい運命がある。

助けたい世界がある。

側に居たい、大切なたった一人の人がいる。

「帰らない…よ」

帰らない。

今帰れないのも確かだけどもし今帰れたとしても帰らない。

これだけ沢山の大切なものを置いて、帰ることなんてしない。

はオレが守るよ」

知らず知らずのうちに泣いていたの涙を親指で拭ってヒノエは言った。

はオレが守る。…約束するよ」

そうして戦が終わったら、熊野を二人で回ろうぜとヒノエは言った。

怨霊なんて、平家や源氏なんて気にせずに。

「…うん」

また涙を溢したをヒノエは優しく抱き締めた。

「…約束だよ」

もしこの約束が守れなくても、今この気持ちは忘れない。

来たときよりも苦しい気持ちで、二人は夕陽の沈んだ海を見つめていた。