「何処に行ったんだ…?」

買い物に行くと家を出た雫が夕刻になっても帰らないので市へ迎えに出た。
が、あの目立つ桃色の髪が見付からない。普段が寄る店の主に聞いてみればとっくに帰ったと言う。
市を見て、港や浜辺も見て回ったが見付からない。
そのまま其処に居ても仕方ないので山道を探しながら屋敷へ帰ることにした。

…?」

ふと。
ふと見えたのは桃色の頭。慎重に後ろから近付くとその後ろ姿は確かにで。
長い髪が風にそよぎ買い物かごは草原の上に置かれていた。
ただ静かに海を見つめて居た。その瞳の色からは何も感じられない。
ざあっと強い風が吹いてあおられる。木々も草花も揺れた。激しく、揺れた。
ただその中で、だけは身じろぎひとつしなかった。
髪が激しく舞っても、立てておいた買い物かごが倒れても。
瞬間、そんなが消えそうな気がして、後ろからそっと近付きぎゅっと抱き締めた。









「きゃあっ!?」

突然背後から抱き締められて驚いて私は声をあげる。
振り向くと其処に居たのはヒノエくんだった。
反射的に体に入れた力を抜く。するとヒノエくんも抱き締める力を抜いて、私が振り向くのを許した。

「びっくりしたあ〜…どうしたの?ヒノエくんこんな所で」

「姫君が帰るのが遅いから迎えに来たんだよ。一体何してたんだい?」

何時もと変わらない表情で聞かれ、私は乱れた髪を整えながら笑って答える。ヒノエくんの腕はいつの間にか腰で組まれていた。

「余りにも市に人が多かったから少し疲れちゃって。前にヒノエくんに教えてもらった山道通って帰ったら海が凄く綺麗だったから、つい」

「海?そんなのいつも見てるだろう?」

「うん、そうなんだけど。陽の光で海が七色に変わって、それが凄く綺麗でね。気付いたら夕方になってた。ちょうど此処から見えるの、ほら」

夕焼けの紅と海の蒼が混ざり合い、溶け合って複雑な色を称えている。
木々の間から見えるその風景を体を捻って指差し、そのまま暫く見つめた。
すると、す…と細くて、それでいてがっしりとしたヒノエくんの手が伸びてきて指差した私の手を捕える。
そのまま引っ張られると目の前は赤い彼の鎧しか見えなくなった。

「ヒノエくん…?」

彼らしくない。力任せに抱き締められて少しだけ苦しい。今、ヒノエくんはどんな顔をしているの?

「ヒノエく」

。」

「…何?」

は熊野が好きかい?」

「?うん、好きだよ?当たり前じゃない」

「そうか…」

更に強く抱き締められた。
何故ヒノエくんが今そんなことを聞いて来たのかわからなかったけど、何も聞いちゃいけない気がして、ただ背に腕を回して抱き締めた。










赤に染まる視界





ヒノエ愛が今凄いよ…!